夕方でも40度の熱気の中を移動したせいか、ホテルに着いた頃はへとへとで

思いのほかぐっすり眠れた。ぎゅうぎゅうとスケジュールを詰め込みがちな

ツアー旅行と違い、妹のこと以外にすることがない僕は約束の時間まで

午前中、暇を持て余す。仕方がないのでホテルのプールで青空を見ながら

ぷかぷかと浮かんでいた。見かねたシンさんが僕を昼食へと誘う。

 

「ココは私が大学生の頃、大好きだった定食屋さん」

 

定食屋さんといっても日本のアレではなく、インドのアレだ。いわゆるカレーの

ようなものが並んでいるのを何種類か選び、頂く。建物が古く外との仕切りも曖昧で

けっして奇麗とはいえない外観に、僕はお腹を壊すのでは?と心配したが

味はパンチが効いていて、とても旨い。日本で食べるインド料理よりもスパイスが

きっちり効いていて癖があるのが僕好みだ。結局、僕はお腹を壊すことはなかったが

インド生まれのインド人シンさんが日本に慣れすぎたためか翌日お腹を壊した。

 

腹ごしらえも済み、いよいよモンスターとご対面だ。大使館に着くとまず門衛に

妹の名前を伝え、兄だと言う。門衛は妹の名前だけで用件が分かったように

笑う。妹はどんだけ大使館で有名人なのだろう。彼女の始末が想像できる。

 

大使館では山田さんともう一人初老の日本人が出迎えてくれた。2人が

妹の説得に立ち会ってくれるという。こちらは僕を含め7人という陣容だ。

用意された部屋に案内され妹を待つが時間になっても妹は現れない。

 

「いつも妹さんは時間通りには来ません。」

 

山田さんはことも無さげに言うが僕は内心イライラしていた。

待たされること2時間、門衛から連絡が入る。妹が来たという。

山田さんが出迎えに行くと部屋からでもそれと分かる声が聞こえてきた。

 

「リキシャで来たのだけれどお金がないので山田さん立て替えてくれません?」

 

来るなり三輪タクシーの代金の無心だ。何様か?と思う。

お前が入るはずのこの部屋には実の兄が待ち受けているのだ。

そうとは知らないお前はさぞやビックリするだろう。

扉があき妹が入場する。スーツ姿のハンダサトシのおまけ付き。

 

「あら、お兄ちゃん、お久しぶり!ご苦労様。」

 

驚いた気配もなく、かといって僕が来ていることを知っていた風でもなく

さらっと妹は言った。空気がまったく読めないのか?

こちらが読んでいる空気とは全く明後日の反応に、全員が凍り付く。

気がつくとどうして良いか分からない僕の陣営のインド人たちは

一斉に僕を見つめている。

 

僕だってどうして良いか分からない。