「当機はあと30分ほどでデリー国際空港に到着致します」
僕とシンさんはインドへ向かう機内にいた。7年ぶりのインドだ。
赤茶けたように見えるデリーの景色が眼下に広がる。
着陸すると機内で唯一スリムな日本人CAがお決まりの台詞をアナウンスする。
「現地時刻は17:00。現在の気温は40度でございます。」
夕方だというのに気温が40度とはいったい何事だ。機内をでると
外気に押しつぶされそうな圧力を感じる。僕の荷物は軽備でそのまま
出ることができたが、シンさんは荷物を預けたので、僕は空港の
ロビーで一人シンさんを待つ。
僕はほとんど英語を話すことが出来ない。だから海外に来ると
基本的に「地球の歩き方」に忠実だ。
「見知らぬ人に話しかけられても話に乗ってはいけません」
早速クルタパジャマを着た初老の男性とTシャツにジーンズを履いた
僕と同世代の男性が笑顔で近づいてくる。明らかに胡散臭い。
英語で僕に話しかけてくる。なぜ僕なんだ?僕はこれから面倒な妹の
案件を片付けねばならぬのに、お願いだからこれ以上問題を
増やさないでほしい。僕は彼らを露骨に無視し、背を向ける。
2人は話しかけるのを諦めたようだったが、ずっと僕の後ろに立っている。
しつこい。不安が募るがそこにシンさんがやってきた。
「コレ、わたしの父と兄。」
露骨に背を向けてしまった2人に顔向けが出来ない。仕方ないので
わざとらしいとは思ったが、今気がついた!、というビックリ顔をしてみた。
一応、片言の英語で挨拶し握手する。快く迎えてくれただろうか?
空港の駐車場にはボックスタイプのワゴンとシンさんの店で働く若い
インド人が3人待機していた。
「ちょうど良かったネ。彼らが里帰りしてくれていて」
車の中で打ち合わせをする。まずはあるホテルのオーナーのところに向かう。
数々のホテルを追い出された後、数日間、妹はバックパッカー用のホテルに
お世話になっていたという。そのオーナーだ。連絡はシンさんが取ってくれていた。
もちろん僕がインドにいることは妹には内緒で。
このオーナーのところで僕は到着早々、驚くべき事実を知る。