新橋のSL広場のマクドナルドの2階で僕は2人を待った。妹の団体の副代表、
川崎さんと広報の白田さんだ。2人はおそらくマクドナルドの前で
待ち合わせたのであろう、連れ添って階段を上がってきた。スーツで現れた
白田さんは妹と同世代の30代前半、新橋でSEの仕事をしているという。
川崎さんは、僕よりも年上で伊豆でカフェを営んでいた。それとなく聞いてみたが
やはり妹の伊豆活性化計画のときに老舗ホテルに居合わせた不運な人だった。
「妹さんはあれ以来顔を見せないから良いんですけど、僕みたいに
地元に住んでいると、ああいうことがあると困るんですよね」
そうだろうと思う。僕は2人にこれまでのことを謝った上で、妹に病気の
可能性があることを伝える。2人はお互いに顔を見合わせ下を向く。
「これまでにおかしいな、って思うことありませんでしたか?」
どうしてこの2人は僕がしゃべると、いちいちお互いの顔を見合わせ
下を向くのだろう?団体側で主にトークの担当は川崎さんだ。
広報の白田さんはほぼ黙っている。
「そう言われればおかしいと思うことあります。なっ、おいあの事とか!」
と川崎さんは白田さんを見る。2人はうなずき合う。
妹は会員を人前で怒鳴り散らすこともままあったという。
打ち合わせをやると突然呼び出して、会員が渋谷に着くと場所を突然変更し、
二子玉川まで移動すると、結局妹のマンションに来いと言われる。
インドに行くと言い出したのも川崎さん曰く、妹の思いつきが全て
うまくいかず、日本での活動に行き詰まりを感じたからだという。
川崎さんにとってもあまりに突然だった。
「よくそんな指示に従いますね?」
ふたりはまた顔を見合わせる。初代婚約者のサイトウ君もそうだが、妹に
関わる人はみな穏やかだ。しかし見方をかえれば鈍臭く、妹に都合良く従順である。
謝るつもりで会っているのだが、段々腹が立ってきた。
「よく、こんな杜撰な妹の計画を信じることができましたね!」
2人は顔を見合わせ下を向く。
「妹さんは寄付が入った、と言うたびに僕たちにお金を見せてくれます。
お金ってある意味、一番リアリティがあるじゃないですか?
だから、こんなに実際に賛同してくれる人がいるんだ、と思って…」
その金の出所はおそらく妹の貯金通帳だ。妹はボランティア団体を立ち上げ
寄付を募り、自分で寄付をし活動費に充てていたのだろう。
「あと、お母様がいらっしゃったんで、つい…」
もう、うんざりだった。よくよく考えれば僕が会いたくてわざわざ
呼び出し来てもらったのに、僕が辟易している。僕と会っている間、
白田さんの声を聞くことはほとんどなかったが団体のブログを
閉鎖することは責任もってやってくれるという。
ささくれだった僕の心が余計なことを口走る。
「お二人は妹とは肉体関係はないんですか?」
どちらに転んでもうんざりしそうな質問だ。言わなきゃ良かった。
2人は顔を見合わせ下を向く。
「僕たちはありません。」
「僕たち」と川崎さんが言う。
これは川崎さんが代表して答えられる類いの質問だろうか?
「僕たちは」と川崎さんが言う。
「は」って何だ?何を除外し何に対する可能性を残した?
呼び出しておいて辟易し、質問してはうんざりしていた。
僕はこの日以来、このマクドナルドを通る度にこの日のことを
思い出し、そして入るのをためらう。