数年前、僕は成田でニューデリー行きの航空機が飛び立つのを待っていた。
例のエア•インディアである。しかしちっとも飛び立つ気配がない。
もう2時間以上待っている。
日本の航空会社であれば数分の遅れでも職員たちがあたふたと走っている。
そういえば陸上競技でインドの選手が走っている光景を見たことがないが
この国の人が走っている姿に記憶がない。エア•インディアの職員も落ち着いたものだ。
ようやくシートに着席すると、前面のポケットに旅の雑誌や機内販売のパンフや
非常時の説明シートなど、どの飛行機でもセットされているはずの冊子類が
全くない。思わずポケットの中を覗き込み手を入れると奥底から丸められた
ティッシュが発掘された。日本人の物でも気持ち悪いのに、どの国の人物の
遺物か分からないと気持ち悪さが倍増だ。
CAがみな年配で…、いやそこは僕の好みの問題なので文句を言うのは
やめておこう。しかし揃いも揃って皆、メガトン級に太っている。体型も
普段なら文句など言ってはいけない。しかし彼女たちが歩いていると
通路をしっかり塞ぐのでトイレにすら行けない。笑顔もないので
話しかけづらい。
ドリンクサービスでウィスキーのロックを頼む。いちいちおかわりを頼むのが
恐いので気を使いダブルで頼んだ。すると僕を飲んべえだと思ったのか?
いちいちおかわりされるのが面倒だと思ったのか?僕のテーブルに
スコッチウィスキーのロック•ダブルを3杯置いて行きやがった。
隣に座る自称弁護士のインド系の男が「彼女は君に惚れてるのさ」と
気の利いたつもりのジョークか何かを僕に英語で投げつけ笑っている。
揺れた時、その自称弁護士の頭上の荷物ケースの扉が外れた。開いたのではなく
文字通り壊れて外れた。あやうく自称弁護士にデッドボールだったが、
彼は機敏に扉をよけた。僕は舌打ちする。
僕は世界中の航空機に乗った訳ではないが、当時のエア•インディアと今は亡き
ヴァリグ・ブラジル航空の印象は劣悪だ。
ブラジルのゴイアニアからサンパウロまで乗ったヴァリグ・ブラジル航空の
国内線は空港で何の荷物検査がないのにもビックリしたが出発予定の30分も前に
飛び立ったのにもビックリした。遅れる飛行機は数あれど早く出る飛行機に
乗ったのは生まれて初めてだった。
そうブラジルもインドもルーズの王様みたいな国だ。思い出が重くのしかかり
ますます僕を憂鬱にさせる。
シンさんの店から帰るともう夕方だ。
僕は眼鏡をサングラスに替え、新橋へと向かう。
団体メンバーに会う約束の時間が迫っていた。