「watasihamounidotonihonnnihakaeranai

   watasigaikirubekihainndodatowakattakarada

   kawasakisanatonokotohayorosikutanomimasu」

 

今の妹なら何でもしかねない。僕は暗号の解読を試みたが、何のことはない、

ただのローマ字だ。それがむしろ不気味さを醸し出している。

ちなみにこれは「原文ママ」ではない。原文はもっと無駄なローマ字が

入り交じっており、とても読みにくい。

 

ジェームスブラウンの人形は電池切れと共に踊ることを止めたが、

妹は踊り続けている。首をぐるんぐるん振りながら踊り狂っている。

 

母はすっかり日課になった夜中3時の妹からの国際電話におびえている。

度を超えていることをエスカレートするというが

妹の場合、エスカレートの度を越している。

 

「インドで知り合った人がある宗教団体に追われている。その人を

 救うため偽装結婚して日本に戻る。私はどこにいても常に狙われている。

 この前もホテルのメードがボーイフレンドを使い、私の部屋に侵入してきた」

 

僕は海外に渡航するなり、こんなトラブルに巻き込まれる人間を

外交官の黒田康作以外に知らない。

 

「金がいる。送金してほしい。送金できないなら、今私が泊まっているホテルの

 オーナーに日本の私のマンションの権利書をコピーして送ってほしい」

 

「カードも携帯も止まった。一度くらい払わなくても止まるはずないのに、

 使えなくなるということは、日本で父が圧力をかけた。私は家族に対して

 裁判を起こす」

 

予想通り、金が尽きかけていた。父だって圧力なんかかけていない。

毎日、ウォーキングに勤しんでいる。

こんな電話に毎日付き合わされる哀れな母が妹が哀れだ、と言って

送金しようとするのを僕は必死で止めた。兵糧攻めだ。金がなくなれば

帰って来ざるをえない、そう考えた。しかし…

 

「グルガオンというところにマンションを借りた」

 

僕のあてが外れる。妹はどのようにして金を工面したのか?

そして朝、いつものように母が僕に昨晩あった妹の電話の驚愕の発言を伝える。

 

「あの子、向こうで結婚するって。」

 

驚愕したのはこっちの発言ではない。この次だ。

 

「なにそれ?え?誰と結婚するって?」

「…インド人のスズキツトム」

 

インド人…インド人なのに名前がスズキツトム…。