僕たちは何のためにここに集ったのか?家族会議は妹の婚約発言によって
サイトウくんへの質問から始まることになった。
「おいくつですか?」「34よ」
「出身はどちら?」 「山形の天童市ってところ」
「お仕事は何を?」 「IT関係でシステムエンジニアをやってるの」
「本当に結婚するんですか?」「そうだって言ってるじゃない」
誰も妹に聞いていないのに全て妹が答える。一年ぶりの妹は不思議と
穏やかな笑顔でむしろそれが不気味さを醸し出している。父は始めから
どうでもいいやって顔をし母と僕は妹の真意を探っているが全く分からない、
といった顔。ナツメさんはまだ驚いた顔で妹を見ている。サイトウくんは
元来おとなしい性格なのか、少しうつむき加減でもじもじしているように
みえた。しかしサイトウくんの表情を見る限り彼も結婚には前向きらしい。
一言も発していないが、そういう誠実さは感じとれた。
「そんなことはどうでもいい。」
父の捨て台詞に妹の笑顔がねじ曲がる。ほら、ウチの家族はこうやって
私の話を聞かないのよ!というテロップが妹のねじ曲がった顔の下に
出ている。しかし妹とサイトウくんを除く出席者全てがどうでもいいと
思っていたに違いない。娘もしくは妹の結婚話は本来、家族に取って
重要な事案なはずだが、この場においてはかなりどうでもいい。
妹はクリアファイルから紙を取り出しその場にいる人に差し出す。
たった一枚の紙に事業計画書と書かれている。その紙を父は見もせずに
床に投げ捨てた。家族会議は序盤にして崩壊寸前だった。
「こんなもの見る価値もない!」
確かに、一枚の紙には「世界に輪を広げエコキャップで貧しい人を
救いましょう!私たちはその手助けをします」と書かれた以外は
賛同する会社と代表者が書かれているだけ。しっかりそこには僕の名前も。
しかし父の手法は父の判断の早さが誇示されるのみで何の解決も
生み出さない、彼が得意とするエゴ的台無し法だ。
ねじ曲がった妹の目にはさっそく涙が浮かび微かに震えている。
もはや家族会議ではなく泥沼の親子喧嘩が始まる、と覚悟したとき
妹を制したのはナツメさんとサイトウくんだった。
サイトウくんはぎゅっと妹の拳を握り、ナツメさんは
「さっき駅で待ち合わせをしたとき、泣かないって約束したよね?
きちんと話し合うって約束したよね?」
大変ありがたかったが僕の頭にあったのは他人の前でもこの人は
泣きわめくのだな、あまり人の話を聞かないのだな。だからこういう
小学生レベルの約束事をナツメさんは駅でしたんだな、という想像だった。
しかしこの発言のおかげで会議はかろうじて持ち直すことができた。
実は事業計画書なんてどうでもいいと思っていたのは父と僕だけではない。
母の頭の中にあったのは妹の中絶のことだけだった。なぜあんなことを
ブログに載せたのか?と母が問う。本当に中絶したのか?という問いではなかった。
「世の中には社会的な事情で幸せに子どもを産めない人がいっぱいいるの!
貧乏で育てられない人がいっぱいいるの!」
もし中絶が事実であったとしても、おそらく個人的な事情で中絶をし比較的
裕福な家庭で育った妹がこう言う。さらに演説は続く。
「そういう人たちにメッセージを送ることで支えとなり救いたいのよ!」
U2のボノとかスティングとかが言いそうな台詞だ。