妹の声を聞くのも苦痛だ。しかしいつもと違い妹の声質が落ち着いている。
こういう時もあるのだ。
「一度家族で会わないか?そこで話し合ったらいいと思うんだけど」
投げたボールがどうなるのか?想像もできないが意外にも妹は
「いいね!私も私の事業のことを納得してもらえるようプレゼンしたいわ」
「必ず私の預金通帳返してもらえるよう説得してね!理不尽よ!」
妹のいう通帳とは、妹が結婚するときに母が貯めた300万円が入った
妹名義の預金通帳だ。
「それは約束できない」
「なんでよ!私名義のものをいくら家族だからって自由にしていいの?
あなたたち家族は私の話なんて聞いてくれないじゃない!!
だから頼んでいるのよ!」
妹は「話を聞かない家族」の一員である性的暴行疑惑の兄にそう頼む。
確かに話を聞く気があるか?と言われれば、ない。しかしこの摩訶不思議な
妹の言うことを面とむかって見てみたい、とは思っていた。
一方で両親の性格を考えると家族会議とは名ばかりで話し合いには
ならないだろう。怒る母、馬鹿にする父、泣き叫ぶ妹の地獄絵図が
僕の頭に浮かぶ。
「じゃあさ、家族だけじゃなくて家族会議に第三者も入れたらどうかな?
あなたの信頼できる、味方になってくれそうな人を2人くらい
呼んだら?それでオヤジやオフクロを説得したらいいじゃん。」
「それは良いプランね!」
正直、同意されるだけでホッとする。しばらくすると来てくれる人が決まったと
妹から連絡があった。妹の彼氏であるサイトウくんと
10年来の知己で最も信頼する先輩のナツメさんだという。
「私の家族会議のためにムリを言ったわけだから、あなたの方からもナツメさんには
事前に電話してお礼を言ってくれない?ナツメさんはとても大事な人なの。」
そう言うと妹は私にナツメさんなる人物の連絡先を教えてくれた。
両親を説得するのは生半可なことではない、そうふんだ妹はよほど強力な
援軍を頼んだのだろう。もともと納得する気のない僕は妹の選んだ
強力な援軍に不安を覚えながらナツメさんに電話をした。
ナツメさんは女性だった。電話越しにも恐る恐るなのが伝わる。
見知らぬ番号からかかってくる嫌な予感しかしない時の対応だ。
しかしナツメさんは意外なことを切り出した。
「今からお会いできませんか?」
ナツメさんはそう言った。