陣 聖人


そう名乗り


奴は僕の横へ座った。



「初めまして!さっきのネクロスって言うのは、なんかの挨拶かい?」


冗談交じりに、嫌になるくらいさわやかな笑顔で僕を見つめた。


クラスの女子はそんな彼にお近づきになりたいのか


様々なアピールをしている。


「犬飼君!当分、陣君と一緒に行動してあげてね!!」


何で僕が!?と言いたかったが彼女は話を続けている。


「だって~、転向してきて一番不安なのはやっぱ友達関係だしね!それにあんな挨拶してるんだから(笑)」



「宜しく!犬飼君!」






休み時間になると、一斉に彼を取り囲んだ。



前の学校のこと?



住んでるところ?



趣味?




好きな食べ物?






話は尽きない。




それに対し笑顔で答える



ネクロ、いや陣と呼ばれる男。





「陣君!今日は私達が食堂を案内してあげるよ!」


「ごめん今日は・・・」



「あ!もしかして、お弁当?」



「違うんだ。今日は先に犬飼君とご飯を食べようと思ってて」




その瞬間



時間が止まった気がした。




誘った女子も周りを囲んでいた男子も



皆目を丸くしてる。




でも、それ以上に僕が目を丸くした!




「犬飼君は僕達と食事をする約束だったんだが・・・」



芹沢が割って入った。



僕は芹沢の嫌な部分を一番知っている。



クラスでは人気者。




だが、影の番長。



この発言がどういう意味だか、きっと陣にはわかっていないだろう。



「そうですか。ならば、一緒に食事をさせてください。」



その発言に芹沢は戸惑った。


満面の笑みで陣は返事を待つ。



「芹沢君ごめん。僕今日は陣君と食べるよ。」


そういうしかなかった。



なんだか不思議な空気のまま



授業が始まろうとしていた。


「ははははっ」


思わず笑う、僕の態度など気にもせず


眉一つ動かさず彼は言った。


「魔神だって?馬鹿なこと言うなよ・・・」


僕の言葉など彼は気にもせずただ空を眺めていた。


「最後に笑わせてくれてありがとう。それじゃ。」


「貴様の命は私が預かったはずだ。」


「あぁ。これは俺の命なんだ。好きにさせてくれ・・・」


言葉とともに僕は飛び降りた。


















いや、飛び降りたつもりだった。




ものすごい突風が彼の腕あたりから


感じたのを覚えている。


気が付けば、僕は地面ではなく


壁際にと吹き飛ばされていた。


「・・・うっ・・・」


「言ったはずだ。その命は私が預かったと。」


「今のは君が・・・」


うっすらと彼を見つめる。


僕は思わず言葉を失った。


「貴様の命は私のものだ。勝手に死ぬことなど許さぬ。」


「う、・・・うで・・・」


「これか?」


野獣の腕が彼の右腕から生えている。


毛深く、太い、恐恐しい腕。


死ぬこと以上の恐怖を僕は今感じている。


「これが本来の私の腕だ。今は人の体を借りているに過ぎんからな。」


彼の腕が静かに人の姿へと戻った。


「殺すつもりか?」


「ふっ。死ぬんじゃなかったのか?」


「あっ!? どうするつもりだ・・・?じゃあ・・・」


「もちろん。死んでもらう。」


「じゃあ、何故僕を助けた?」


自らをネクロスと呼ぶ男は


しばらく空を眺めた後に僕に話しかけた。


「オリンピック?みたいなものだ。」


「・・・」


「魔界には3年に一度だが、大きな祭りがある。」


魔界という言葉に不思議と違和感を感じなかった。


むしろ、受け止めるしかなかったのかもしれない。


「祭りって?」


「私達にも規律がある。むやみに下界の命を奪うことは禁止されている。」


「しかし、その時だけは私達にもその許可が下りる。」


「それって、まさか?」


「そうだ。貴様達の命を奪うという事だ。」


聞きたいことは山ほどあった。


でも聞けなかった。


今まで受け止めようとしていた心が折れた。


悪い夢なら覚めて欲しいとさえ思った。


「勘違いするな 私達は下等な魔族とは違う。」


「奪うは、たった一つの命。それが貴様だ。犬飼俊介!」


「冗談じゃない!そんな人の命をゲームに使うなんて!」


「笑わすな!捨てようとしていた命ではないか。」


「お前は、死んだのだ。飛び下りた時点で。」


「そして、私はそれを救った。故に、その命は私の物だ。」


凍りつくような魔神の目に僕は動けずにいた。


「18歳の誕生日。それがお前の命日だ。」


「ちょっと待ってくれ!」


「私が言えるのはここまでだ。」


彼の姿がぼんやりと消えていこうとしていた。


「待ってくれよ!僕はこれからどうしたらいいんだ?!」


「死なないようにするだけだ。」


「おい!待て!ネクロス!」


僕の声はむなしく響き渡った。






僕は死ぬことも出来ず




自分の余命だけを告げられた。



明日から学校が始まる。


また生き地獄の始まりだ。












翌朝。



学校へ向かった。


いや、向かうしかなかったのだ。


それが、僕の運命だったのだ。


そして、僕は悪夢の始まりである教室の扉を開けた。



「犬飼君?やっと来たのね?」


教師としては少し幼い顔つきに、派手な髪の色


似合わないスーツにべタな眼鏡から教師と予想された。


「コホン!じゃあ、揃ったからみんな席に付きなさい!」


「え~!この度、藤原先生の変わりにこのクラスの担任となりました!杵島 友紀(きしま ゆき)です!

宜しくね」


破天荒なしゃべりにクラスはついていけずにいた。


「さぁて!早速、転校生が来ています!紹介するわね!陣君?」


教室に入って来た男に


僕は言葉を失った。


「陣 聖人です!よろしくお願いします!」


「ネクロス!!」


決心がついた朝は


嫌なくらいの快晴だった。


占いも嫌になるくらいのラッキーデー


そんな日に


自殺を決めている・・・


学校には部活道をする生徒や


夏休み明けの仕度をする教員がいる。


ここでばれたら、僕の自殺計画もここまでとなる。


ただでさえ、登校拒否の僕は教師から見ても


目立つ存在だ。


慎重に屋上を目指した。


不思議と楽しくなった。


そして、死ぬことが馬鹿らしくさえ思えた そのときだった。


僕の前に苛めの張本人


大熊 正(おおくま ただし)が現れた。


「ん?お前は?」


僕は声と同時に逃げる行動に移るが


彼の大きく太いうでは、僕の制服の襟を


いとも簡単にくちゃくちゃにした。


「おい!どこいくんだよぉ!久々じゃねぇか?」


「関係ないだろ。放してくれよ。」


「へっ!お前誰に向かって口聞いてんだ!」







「やめろ熊!」






大熊のこぶしが僕の中にめり込む一歩手前だった。


「やめとけ、センコーが沢山いる前でこんなことしたら、俺達に非が出るだろ。」


「あ、悪い・・・」


大熊の半分くらいにしかない男の名前は


芹沢 正輝(せりざわ まさき)


クラスを束ねるリーダー的な存在は表の顔。


本当の芹沢は


僕をターゲットにした、不良グループのリーダーだ。


「おい、犬 学校嫌いの君が何故ここに?」


芹沢の凍るような表情と言葉に僕は思わず目を背けた。


「まさか、自殺なんて考えてないよね?」


その言葉に背中に冷たい汗が流れた。


「仮に君が自殺しても誰も、悲しまない。むしろ喜ばしいくらいだよ。」


僕の肩に手をあて、更に彼は続けた。


「だからさ、どうせ死ぬなら学校じゃなくて自宅にしてくれないか?僕達に迷惑をかけないでくれ・・・」



ウソツキくん






気が付くと僕は屋上に立っていた。


嫌になるくらい、穏やかな時間が流れる中で


単純作業をするかのように死ぬ準備を整えた。


芹沢をにくいなんて考えるよりも


あの冷たい男から早く逃げ出したかった。


何も考えることは出来なかった。


ただ、いつくるかもしれない芹沢の影におびえながら


僕は手すりを越えた。


下を見て


家族の顔が一瞬浮かんだ。


だが、同時に芹沢の顔がそれをかき消した。


体の中からくる寒気とともに


僕は目をつぶった。







「その命、私が頂こう!」 

耳ではなく


頭に響く声に


思わずわれに返った。


あたりを見渡すが声の主が見当たらない。


「誰?」


「我が名はネクロス」


今度ははっきりと聞こえる声


背後に立つ男は


人形のようにすらっと長く伸びた手足


一見女性と間違えるような整った顔立ちに


一瞬心を奪われたのを覚えている。


「犬飼俊介。 貴様の命、この私が頂こう。」


眉一つ動かさず冷静に言う男に、思わず声を上げた。


「君は誰なんだ?」


「我が名はネクロス!人は私を魔神と呼ぶ。」