赤目四十八瀧心中未遂 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

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ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

赤目四十八瀧心中未遂/車谷 長吉
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私は、名張市の桔梗が丘という街に、
数年間居を構えていたことがあり、
目と鼻の先にある赤目四十八瀧には、
景勝を愛でに何度も訪れているのだが、
「赤目四十八瀧心中未遂」という小説があることを
映画化されるまで知る事はなかった。

名張といえば、毒ブドウ酒事件が有名で、
題名から、実際にあった事件に基づいて書かれた
ノンフィクション・ノベルの類だろうと思って
手に取ることはなかったのだが、
マイミクのティミアンさんが、
作者の車谷長吉を好きな作家に上げておられたので、
俄に興味を持ち、早速図書館に探し求めに行くと、
「赤目四十八瀧心中未遂」は、
私が来るのを待ち構えていたかのように
書棚の中で自己主張して異彩を放っていた。

ページを開くと、いきなり
冒頭の主人公のモノローグから心を鷲掴みにされた。

それはそれで私には世捨てであった。
心の中の一番寒い場所では「どないなと、なるようになったら
ええが。」という絶望が、絶えず目を開けていた。
こういう私のざまを「精神の荒廃。」と言う人もいる。
が、人の生死には本来、どんな意味も、どんな価値もない。
その点では鳥獣虫魚の生死と何変わることはない。
ただ、人の生死に意味や価値があるかのような言説が、
人の世に行なわれて来ただけだ。

40歳のときに脱サラして創めたDPE店を2年前に廃業し、
絶望の淵にあった私の心を支配していた
「私が私であることの耐え難い苦痛」が、
そこには、見事に書き綴られていた。

悪臭放つ汚濁にまみれた吹き溜まりのような街に漂流してきて、
汗と精液と血と涙にまみれて、もがき絡み合う人間たちの怨嗟が、
溶岩の如くドロドロと行間から溢れ出してくる様な、
圧倒的なリアリズムとデガダンス。
救いようのない世界から、主人公とともに、
「外の世界」に飛翔する事を願い、
叶わなかった、あやちゃんの背中で羽ばたく極楽の鳥、
迦陵頻伽(かりょうびんが)の美しさが、悲しい。

私は、今サラリーマンに戻ったが、同僚からは、
今の時代に生きていけない
「古代の少年のミイラが今の世に生き返ったような」
主人公のように見えているに違いない。

(2007年8月14日)

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