幕末太陽傳 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

監督 川島雄三

主演 フランキー堺、南田洋子、左幸子

1957年 日本



飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら















松竹で、生活のために、B級喜劇映画を言われるままに
作っていた川島雄三は、日活に移ってから才能を発揮し始めて、
同社で最後に撮った本作で頂点を極めます。
彼が日本映画史に残る傑作を生み出せたのは、
日活時代に、彼の下で4年間チーフ助監督を務めた
今村昌平のサポートに負うところが大きく、本作の撮影時に、
筋萎縮症で車椅子から演出せざるを得なかった川島監督は、
有名な南田洋子と左幸子が演じる女郎が喧嘩するシーンなど
役者が動き回る演技指導を、今村昌平に任せていたようです。

本作は、明治維新前の乱世の時代に、
品川の遊郭に流れてきた男が、
居残りとしてずぶとく生きる姿を描いた喜劇で、
主人公を古典落語の『居残り佐平次』から借りてきて、
落語を聞いているような小気味好いテンポで、
物語が展開されていきます。

口八丁手八丁で一目置かれる主人公は、
不治の病に侵されているために、
大胆ではあるがどこか投げやりな生き方で、
最後は、社会の煩わしさから逃げ去るように、
当て所もない旅に出るのですが、
漢詩の五言絶句を井伏鱒二が訳した『この盃を受けてくれ、
どうぞ並々注がしておくれ、花に嵐のたとえもあるぞ、
さよならだけが人生だ』を座右の銘にしていた
破滅型の川島監督の姿と重なって、後姿が悲哀を誘います。
川島監督は当初、主人公がセットを飛び出して、
現代の品川の町を走り抜けていく斬新なラストシーンを
用意していましたが、スタッフの反対にあって幻に終わりました。
併し、この幻のラストシーンのアイデアは、
後に今村昌平が、自作『人間蒸発』のセット解体シーンに
取り入れており、日本映画界が、川島監督の考えを理解するのに、
10年の月日を要したと言えるでしょう。


(2009年7月22日)

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