先のヨーロッパ旅行で非常に思い出深かった出来事の一つについて話します。

 

せっかくヨーロッパに行くのだからと、数日間だけ古い趣のあるお屋敷に滞在しました。(それ以外は“民泊で自炊”の一択です!)

 

最初は古城をホテルにしてるところに泊まろうと考えたのですが、こういうところは非常に高額です。もう少しお手軽なところはないかと探したら、このお屋敷(シャトレ)がヒットしました。お城ではないですが、19世紀に音楽家が作ったシャトレだそうで、予約サイトに掲載された写真はとても良い感じです。

(日本でも古民家を快適にリノベーションして素敵な宿泊施設にしてるところありますよね。)

 

外見だけでなく、このシャトレは評判がとても良く、オーナーがフレンドリーで素晴らしいとのこと。そして、お値段も高すぎず、朝食までついているのです。

 

問題があるとしたらアクセスです。パリから電車で北東に1時間ほど乗ってコンピエーニュ (Compiègne)という駅でおり、そこから車で15分ほどです。オーナーからはレンタカーを借りることを勧められました。バスも通ってないし、タクシーも現実的ではないとのこと。車がないと、コンピエーニュの観光スポットにも行けないから勿体ないというのです。

 

海外での運転は心配でしたが、夫が大丈夫というので(夫は海外生活経験があり運転もしてたとのこと)、こちらに泊まってみることにしました。

 

宿泊当日、まずパリの北駅からコンピエーニュに行く電車に乗ります。パリから80㎞ほどしか離れていないので、長距離列車を予約して行くほどではないと思い、とりあえず駅で切符を買ってその時乗れる電車で行くことにしました。

 

駅に着くとちょうど10分後くらいに出る電車があります。よし、切符を買おう!とホームのすぐそばにあった券売機に向かいました。しかし、勝手がわからない上に機械の動きが悪くて一向に購入にたどり着けません。近くに有人のカウンターも見当たりません。

 

このままでは電車に間に合いそうもないので、とりあえず乗って車内で精算することにしました。改札はなかったので切符がなくても電車にはすぐ乗れます。

 

乗車後は、4人掛けに一人しか座っていないボックス席があったので、そこに腰を落ち着けました。電車は軽やかに走り出します。

 

しばらくすると、乗務員が切符確認にやってきました。私たちの向かいに座る青年はスマホのQRコードをピッとしてもらい確認完了。次は私たちの番です。

 

「切符を買えなかったので、ここで料金を払いたいです。」

私が笑顔で伝えると、乗務員がさっと顔を曇らせ険しい表情になりました。

 

「え、え、何か問題あるの?」と、こちらの心拍数も上がります。

 

その後、乗務員からベラベラと、「切符を持たないのは許されない、その場合、罰金を含めて一人当たり50ユーロ払うなら許される」、みたいなことを言われました。


「それでいいですー、どうかお許しを―」


ビビリで真面目な日本人である私たちは、反射的にそう答え、すぐに二人分の100ユーロ(1万6千円位)をデビットカードで支払い、お目こぼししてもらいました。

 

難を逃れてほっとしてると、後ろの席の乗客も切符がなかったみたいで乗務員と揉めています。この乗客はかなり気丈に食い下がってて大論争になってます。(フランス語で揉めてるので何を言ってるか分からないのですが、互いが自分の正当性を譲らないようです。)

 

そういえば、私たちも知らなかっただけで運賃を踏み倒すつもりは毛頭もなかったのだから、もっと食い下がっても良かったかなと、後ろの勇敢な客の奮闘を聞きながら少し反省(こんなところでも反省してしまうところが、どこまでも真面目な私...)。

 

そして段々冷静になってきて、普通にコンピエーニュまでの電車代はいくらか確認したら一人たったの14ユーロ。実に3倍以上の金額を払ったことにようやく気付き(遅い!)自分たちの小心ぶりを改めて残念に思ったのでした。

 

でも、良い勉強になったよ、仕方ないよ、お金払って済んだのだからいいじゃん、

私たちは互いに慰めあって、マイナスに傾きそうな気持を必死に押しとどめました。

 

と、その時、向かいの席の青年が英語で話しかけてきました。(フランスには英語を余り話さない人も沢山います。私は勿論フランス語は全く分かりませんから、少しでもわかる英語で話されるととりあえず安心します。)

 

「フランスでは切符は持ってないと駄目なんだ」みたいな話をした後で、どこまで行くのか聞かれました。コンピエーニュと答えると、なんと彼はコンピエーニュの住人で、家に帰る途中だというではありませんか。

 

それから、しばらくコンピエーニュの話を沢山してくれました。コンピエーニュの市バスは無料なこと、コンピエーニュ城の前には4㎞にわたるまっすぐな芝生の道が通っていること(ナポレオンが一晩で作らせたこと)、第一次大戦の時に休戦協定が結ばれた場所があり今は戦争博物館になってること、近郊にも素晴らしい城がある、等等を、スマホでグーグルマップを見せながら教えてくれました。

 

駅からレンタカーを借りるというと、レンタカー屋までの行き方を教えてくれました。バスで一本で行けるのですが、駅に車を停めてるから自分が乗せていくよ、と言ってくれました。いいの?と言うと、今日はもう家に帰るだけで時間があるから大丈夫とのこと。

 

会ったばかりの人への信じられないような親切なオファーにビックリしましたが、屈託ない笑顔と素朴な話しぶりがとても気持ちのよい青年だったので、ご厚意に甘えることにしました。

 

レンタカー屋まで乗せて行ってもらう間、日本人がフランスで車を運転する時の最大の難所、ラウンドアバウト(環状交差点)の通り方も実地で見せてくれました。慣れない人はとにかく外側の車線を走っていれば大丈夫とのこと。

 

これが本当に助かりました。彼がいなかったら、果たしてちゃんと運転できたかどうか疑わしいです(そんな状態なのにレンタカーを借りようとしている私たちも無謀なのですが)。

 

レンタカー屋で別れる際にFacebookアカウントを交換し、後でお礼のメッセージを送りました。すると、翌日になって、仕事がオフになったから会わないかと連絡がきました。こちらは勿論OKです。その日は本当に町の隅から隅まで案内してもらい、ついでに彼の結構ドラマチックな人生についても教えてもらって、大いに楽しみました。

 

コンピエーニュはただでさえ美しく見どころが沢山ある町ですが、彼と出会えたことで特別に素晴らしい場所になりました。それもこれも、あの電車にとりあえず切符なしで乗り込んで、彼の正面に座ったからです。

 

罰金100ユーロを払った残念な出来事は、今となっては最高にラッキーな思い出となりました。

 

人生って本当に不思議です。