怪談「人形」

 

 

 

皆さん、人形には魂が宿りやすいって話を聞いたことがありませんか?

 

説によってはですね、長年大切にされてきた人形に付喪神、いわゆる物に宿る神様ですね。

 

そういう神様が宿るとか、人の魂が人形に憑依すると言った説ですね。

 

まぁ、人形というものは、人に似せて作ってありますからね。

 

生への未練を抱えて彷徨う魂にとっては良い体なんでしょうかね?

 

前座はこれくらいにして、今からお話するお話はですね、とある県の大学に通う大学生さんのお話なんですけどね?

 

その学生さんは大学の近くにアパートを借りて一人暮らししてるんですよ。

 

まぁ、誰しも高校を卒業したら家を出て、一人暮らしに憧れるもんじゃないですか?

 

その学生さんも同じで、アパートの一室を借りて暮らしてたんですよね。

 

そのアパート自体は、まぁ、最新の設備が揃っているとはいえませんけど、昭和とかに建てましたよとか、古臭いって感じてしまうほど、ボロアパートではありませんし、学生の身としては、そこそこ良いところに住んでるなって思われるくらいには綺麗ですし、事故物件でも、いわくつきの噂も一切ないくらいにクリーンなところなんですよ。

 

まぁ、若者なら、恋人の一人でも連れ込めるなって思えるくらいには綺麗と言った方が分かりやすいですかね?

 

まぁ、そんな綺麗なアパートにその学生さんは住んでいるんですよ。

 

でね、やっぱり一人暮らしだと、学生さんなら趣味にも没頭できるわけですよ。

 

多少、お金かかっても、バイトすればお金は入りますしね?

 

場所だって、一人暮らしですから、自分がしっかり管理してれば誰にも文句を言われないわけですからね?

 

その学生さんはね、インテリアとして飾れるようなちょっとおしゃれなアンティークの置物とかを集めるのが好きなんですよね。

 

通ってる大学に入学が決まって、借りる部屋への引っ越しも終わったら、すぐに周辺のアンティークショップを調べたくらいですから。

 

でもね、雑貨屋さんなら割とどこにでもあるもんですよね?

 

ダイソーとかの100均なんて全国店舗なんですから。

 

でも、アンティークショップとか、わりと専門性のあるものって意外と大きなショッピングモールがあるような都会とかの街中に行かなきゃないもんで、その学生さんの通う大学があるのが郊外なもんで、そう言った店が見つからなかったんですよ。

 

でも、本当に没頭できる趣味を持っている人の行動力って本当にすごいんですよねぇ。

 

その学生さん、暇を見つけては周辺探索を続けて、自転車で片道30分かかる場所なんですけど、小さな中古のアンティークショップを見つけたんですよ。

 

その時、学生さんも大喜びしたんでしょうね。

 

見つけたその瞬間にお店に入って、いくつか商品を買って帰ってるんですよね。

 

後にバイトも始めて割と充実した学生生活を送っていたらしいですよ?

 

あの人形を見るまではね?

 

ある日ね、バイトが休みの日に、その学生さんはいつも通りに、大学帰りにアンティークショップに寄ってみたんですよね。

 

そしたらね、アンティークショップには似合わない、人形が置いてあったんですよ。

 

店って、外からでもどんな物を扱ってるのか、ざっとでも分かりやすいように、正面をガラス張りにして、ショーウインドウを作ってるところとかあったりするじゃないですか?

 

そのショーウインドウの中にあったんですよ。

 

ウェーブのかかった綺麗な金色の髪をして、服とか本体にわずかに汚れや傷が入ってる、フランス人形風の人形がね?

 

その学生さんも、一瞬、あれ?って思ったらしいですよ?

 

そのお店で人形なんて置いてあるのを見たことが無かったらしいですからね。

 

それに、ショーウインドウに出してあるにしては、置いてある位置が少し雑だったって話なんですよ。

 

学生さんはそのまま店に入って、店員さんに人形の事を聞いたんですよ。

 

そしたら、当店は人形は取り扱いしていないって言われたらしいんです。

 

まぁ、学生さんも見たのは一瞬だったんで、おかしいなぁとは思いながらも、気のせいだと言い聞かせて、いつものように気に入ったアンティークアイテムを数点買って、お店を出たんですよ。

 

一応、帰る前にショーウインドウを見たんですけど、店員さんの言う通り、そこに来た時、一瞬、目に入った人形なんてどこにも無かったんですよね。

 

その時、学生さんはやっぱり自分の気のせい、何かと見間違えたんだって納得して、アパートに帰ったんですよ。

 

その後ろ姿を見つめる視線に気づかずにね?

 

数日後、時間ができた学生さんは、またアンティークショップに行ったんですよ。

 

で、店の前についた時、ふと視線を感じて、顔をあげたんですけど、そこには自分を見つめるものは何もなくて、気のせいだと思って、そのまま店に入ったんですよ。

 

でもね、学生さんが視線を感じた場所なんですけどね、先日、学生さんが一瞬見かけたショーウインドウの中に置いてあった人形があった場所だったんですよ。

 

何も気にすることなく学生さんが店に入ったんですけどね、入った瞬間に一瞬だけですけどね?

 

視界の隅に、あの人形が置いてあるのを学生さんは見たんですよね。

 

すぐにバッとそちらの方を見たんですけど、やっぱり人形なんてなくて、なんとなく気持ち悪さを感じた学生さんは、何も買わずにすぐに店を出たらしいですよ。

 

すぐにその場を離れた学生さんは恐怖を感じつつも、割と冷静だったんでしょうね。

 

けどね、店を出たのは学生さんだけでは無かったんですよ。

 

数週間後、奇怪な視線に襲われることもなくなって、人形の存在をすっかり忘れて、学生さんはまたお店にも行ってたんですよね。

 

そんなある日ですね。

 

いつもの店からの帰り道に、ゴミ捨て場に人形が袋にも入れられずに単体で捨てられてるのを見かけたんですよ。

 

学生さんは一瞬、あれ?と思ったんですけど、じっと見つめてるうちに視線を感じだしたら嫌だなと思ったんでしょうね。

 

そのままノンストップで横切ってアパートに帰ったんですよね。

 

まぁ、ゴミ捨て場にあった人形だから、学生さんもそこまで気にしなかったんでしょうね。

 

後日、店に行く途中にはすでに人形は無くなってましたし。

 

けどね、その帰り道ですね。

 

今度は草が伸びきっている空き地の傍に捨てられてるのを見かけたんですよね。

 

次、店に行った時は、交差点で、その次は大学へ行く道とアパートへ行く道の分岐点で見かけたらしいんですよ。

 

しかも、全て、店からの帰り道だったらしいですよ。

 

でもまぁ、人形というのは、オーダーメイドかよっぽど高いものでも無い限り、複数人の子供が所持していてもおかしくないもの。

 

マナーは悪いけど、子供が捨てて行ったものなんだろうと、思うようにしてたんですよね。

 

けどね、ある日の大学からの帰り道なんですけどね。

 

その日はあいにくの雨だったんですよ。

 

学生さんは、雨で薄暗くなっている道を、急いで帰っていたんですよ。

 

そしたらね、見かけちゃったんですよ。

 

自分の住んでるアパートから数十メートルしか離れてない、普通にその場所からアパートが見える場所にあの人形が落ちてるのを

 

服や本体に傷や汚れがあるだけじゃなくて、最初、一瞬見かけた時には綺麗だった髪も雨に濡れてドロドロになってしまっている状態の人形をね?

 

うわっ!?やばい!?って思った学生さんは、急いでアパートに戻って、玄関には鍵を二重にかけて、チェーンも繋いだんですよ。

 

で、部屋の中のドアや窓を全て閉めて施錠して、恐怖のあまり布団にもぐったらしいですよ。

 

それから数時間後、特に何も起きなかったことに安心したのか、学生さんは恐る恐る布団から出て、部屋の電気をつけたんですよ。

 

電気付けたら、部屋の中に人形が立っている。

 

怪談とかホラー映画とかでよくありそうな話ですよね?

 

そんな展開を脳裏に浮かべて、恐る恐る電気をつけたせいか、部屋がいつも通りの部屋で安心したのか、学生さんはその場に座り込んだんですよ。

 

その後は、何もなかったせいか、すっかり人形のことも忘れて、いつも通りの生活を送ったんですよね。

 

ところがですね、深夜2時か3時くらいですかね。

 

いわゆる丑三つ時と言われる時間帯ですね。

 

外は雨が降っているはずなのに、どこからクスクス・・・クスクス・・・って女の笑い声が部屋に響き始めたんですよね。

 

その笑い声で学生さんは目を覚ましたんですけど、起き上がろうとはしなかったんですよね。

 

いや、金縛りで起き上がれなかったんですね。

 

雨が降ってるはずなのに、外から響いて来てるその笑い声はどんどん、学生さんの住む部屋に近づいてきているんですよ。

 

頼む!!ここに来ないでくれ!!頼む!!って心の中で力強く願っていたんですけどね、その思いも空しく、笑い声が部屋の前まで来たんですよ。

 

その瞬間に笑い声が消えて、金縛りも解けて、動けるようになって、学生さんは助かったのかと思ってため息をついたんですよね。

 

ピーンポーン・・・・

 

学生さんはビクッと恐怖を全身で感じたんですね。

 

学生の身で深夜帯に来訪者が来るとしたら、夜遊びをしてる人間しかいない。

 

学生さんには夜遊びする相手も、予定もなかったんですよ。

 

ピンポーン・・・

 

二回目の呼び鈴で、恐怖を感じて学生さんは布団に潜り、壁の方を向いて、帰ってくれと祈りならが、息をひそめたんですよ。

 

ピンポーン・・・・ピンポーン・・・

 

三回目、四回目と呼び鈴がなると、また静寂が戻ってきたんですね。

 

けど、学生さんはあまりの恐怖で安心できませんでした。

 

そして、数秒後、静寂が続いたかと思いきや、玄関の方で、

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!

 

明らかに無理やり玄関を開けようとする音が室内に響き、学生さんは頼む!!開かないでくれ!!と祈ることしかできませんでした。

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ・・・・ガチッ!!・・・ガチッ!!・・・ガチャン!!・・・

 

玄関からきぃっと扉が開く音がして、クスクスと小さく笑う女の子と一緒に、ひた・・・ひた・・・ひた・・・ひた・・と足音が近づいて来たんですよ。

 

学生さんは歯がカチカチ音を鳴らせてるのが聞こえるんじゃないかと錯覚するほど、布団の中で震えていました。

 

そして、学生さんが寝ている部屋の扉がきぃっと開くと、その笑い声と足音は、学生さんの真後ろまで来たんですよ。

 

妖艶な女の声で、やっと見つけたと声が聞こえた瞬間、一瞬で静寂が戻り、部屋には雨の音が響くだけでした。

 

音も視線も気配も感じないと思った学生さんはすぐに飛び起き、部屋の中や、玄関、部屋の扉を確認したんですけど、開場された形跡は全くなかったんです。

 

酷くリアルだったけど、悪い夢でも見たのかと思った学生さんは、朝までまだ数時間ある事に気づき、起きてても恐怖で落ち着かないことを理由に、もう一度寝ることにしたんですよね。

 

布団に潜って、今度は壁に背を向けて、目を閉じたんですよ。

 

クスクス・・・クスクス・・・

 

また、あの笑い声が聞こえて、背中の方に視線を感じて、学生さんは恐る恐る振り返ったんですよ。

 

そこには一緒に横になって、こちらを見つめるあの人形がいたんですよね。

 

ただ、顔だけは目が真っ黒に染まって口は血だらけの、人間の女のような顔に見えたらしいですよ。

 

そして、こう言ったんですね。にたぁと血みどろの歯茎を見せながら、“こんなにあなたの事見てるのに、どおして私を見てくれないの?”って

 

その後、学生さんがどうなったのか・・・

 

説によっては、後日、例の人形を抱きしめたまま、冷たくなった学生さんの遺体がそのアパートの部屋で発見されたとか・・・

 

皆さんも中古店などで場所に似合わない人形を見かけた際は、どうぞ身の危険にご注意してください。

 

END