みなさん、ごきげんいかがでしょうか?
43才Mrガチぼっちの「ありのこ」です。
今回はミステリー小説のレビューです。
取り上げる作品は
島田荘司(しまだそうじ)「改訂完全版 占星術殺人事件」
です。
1981年に出版されたのにいまだに色あせない不朽の名作です。
私は大学に通っていた西暦2000年前後に改定前の「占星術殺人事件」を読み、衝撃を受けました。
約20年の時を経て「改訂完全版」を読みましたが、やはり面白い!
「面白いミステリー小説はいくら時が経っても面白い」というアタリマエのことを再認識しました。
今回はこの不朽の名作が受けることになった2つの悲劇を取り上げます。
ネタバレなしなので、ご安心ください。
<もくじ>
・アマゾンにおける「改訂完全版 占星術殺人事件」の説明
・「占星術殺人事件」の悲劇その1~江戸川乱歩賞を受賞できず
・「占星術殺人事件」の悲劇その2~金田一少年の事件簿にパクられる
○アマゾンにおける「改訂完全版 占星術殺人事件」の説明
密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。
彼の死後、六人の若い女性が行方不明となり肉体の一部を切り取られた姿で日本各地で発見される。
事件から四十数年、未だ解かれていない猟奇殺人のトリックとは!?
名探偵・御手洗潔を生んだ衝撃のデビュー作、完全版!
二〇一一年十一月刊行の週刊文春臨時増刊「東西ミステリーベスト一〇〇」では、日本部門第三位選出。
○「占星術殺人事件」の悲劇その1~江戸川乱歩賞を受賞できず
島田荘司(しまだそうじ)氏のデビュー作です。
名探偵・御手洗潔(みたらいきよし)もこの作品で登場します。
「本格ミステリー」の形式をきちんと踏み、途中で2回も「読者への挑戦」を入れる大胆さ。
そしてラストで明かされる「たった1つのトリック」。
その「たった1つのトリック」は「日本中を40年間だまし続けていた」と納得できるトリックでした。
「占星術殺人事件」は「本格ミステリー of 本格ミステリー」と言って良いと思います。
しかしこの「占星術殺人事件」は江戸川乱歩賞を受賞できませんでした。
「占星術殺人事件が江戸川乱歩賞を受賞できないとはなにごとだ!」と憤慨したのを覚えています。(2000年ころの話です)
1980年に「占星術のマジック」というタイトルで江戸川乱歩賞に応募。
最終選考に残りましたが、江戸川乱歩賞は逃しました。
江戸川乱歩賞を受賞したのは井沢元彦氏の「猿丸幻視行」でした。
作品の優劣の問題ではなく、
「江戸川乱歩賞だったら「占星術殺人事件」だろう!」
「占星術殺人事件に江戸川乱歩賞をあげないでどうする!」
という話です。
もっと言えば
「占星術殺人事件」って江戸川乱歩が長編で書きたかったミステリー作品なんじゃないの?
という事です。
wikipediaの「占星術殺人事件」の項目には
『週刊文春』が推理作家や推理小説の愛好者ら約500名のアンケートにより選出した「東西ミステリーベスト100」の国内編で、本作は1985年版で21位に、2012年版では3位に選出されている。
2014年1月、イギリスの有力紙『ガーディアン』で本作が「世界の密室ミステリーベスト10」の第2位に選ばれた。
とあります。
「占星術殺人事件」は時代が経ってもしっかりと評価されているミステリーです。
「改訂完全版 占星術殺人事件」のあとがきには
「清張呪縛下」にあった(p515)
とあります。
「清張=松本清張(まつもとせいちょう)」です。
島田荘司先生は改訂完全版のあとがきで「江戸川乱歩賞を取れなかったこと」については触れていましせん。
しかし松本清張以後の「ミステリー小説は社会派ミステリーしか認めない」という風潮が1980年当時にはあったそうです。
簡単に言えば
「ミステリー小説は汚職とか公害とか社会的なテーマがないとダメ。天才的な名探偵が出てきてズバズバ謎を解くのは非現実的でダメ」
とのこと。
今では考えられませんが、1980年当時はそんな感じだったようです。
「占星術殺人事件」が江戸川乱歩賞を取れなかったのは
「時代が悪かった」
ということに尽きる。
人生も作品も「時代とのめぐり合わせ」というのがあるのだと思います。
しかしこの「占星術殺人事件」が時代を変えることになります。
「改訂完全版 占星術殺人事件」のあとがきにある通り
この作に刺激された在野の若い才能たちが胎動を開始し、まもなく、「新本格」のムーブメントが西日本から登場(p517)
し、「占星術殺人事件」のような探偵が活躍するミステリーの人気が定着します。
マンガ・アニメ・ドラマで言えば「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」のようなミステリーです。
そう言えば2022年4月からまた日本テレビでドラマ「金田一少年の事件簿」をやるようですね。
○「占星術殺人事件」の悲劇その2~金田一少年の事件簿にパクられる
「社会派ミステリー一辺倒の世界」をひっくり返いた「占星術殺人事件」。
その功績はすさまじいですが、その「占星術殺人事件」に悲劇が襲います。
「金田一少年の事件簿」というコミックで「トリック」がパクられます。
さらに悪いことに連続ドラマ「金田一少年の事件簿」でもパクられたトリックがそのまま使わてしまいました。
ドラマの「金田一少年の事件簿」は1995年に放送。(キンキキッズの堂本剛さん・ともさかりえさんが出演)
1997年に「週刊文春」が「金田一少年は盗用だらけ」と報道。
他人様のサイトですが、⇓このサイト⇓に詳しい状況が書いてあります。
「トリックに著作権がある」とは思えませんが、
「さすがに占星術殺人事件のあのトリックを使うのはまずかった」
ということだったのでしょう。
ドラマのビデオ(当時は懐かしのビデオテープ)・DVDでは該当する話は欠番。
また書籍などには「『占星術殺人事件』のトリックを用いています」と記載されるようになった」とのこと。
コレはコレですごいネタバレ状態だと思いますが・・・
「金田一少年のトリックを占星術殺人事件がパクった!」と誤解した人もいたらしいので、仕方ないのかな。
しかしいくらインターネットが普及してない「コンプライアンスなき20世紀末」の話とは言え、すさまじい盗用ぶりですね。
「江戸川乱歩賞を逃す」「金田一少年の事件簿」にパクられるという2つの悲劇に見舞われた「占星術殺人事件」。
この2つの悲劇は20世紀の話ですが、21世紀に入って20年以上経っても「占星術殺人事件」の素晴らしさは変わりません。
いや、輝きを増しているくらいです。
21世紀に入り「改訂完全版」が出ています。
昔、「占星術殺人事件」を手にとった方も「改訂完全版」を手にとってはいかがでしょうか?
○あわせて聴きたい=傑作「占星術殺人事件」~金田一少年と乱歩賞
このブログの内容をスタエフで音声配信しています。
ブログ記事で書かなかった「有名人・芸人で見る時代とのめぐり合わせ」について話しています。
11分の配信です。
興味があればぜひお聴きください。
⇓スタエフ音声配信⇓