情報がスムーズに上がってくる体制を作るには、日頃から"Badnews is the first."(悪いニュースから先に伝える)という習慣を徹底すること、そして悪いニュースを受けてもリーダーはいつも笑顔でいるという原則を必ず守ること。
上にいる者ほど、いつも笑顔でいるように心がけなければなりません。リーダーの笑顔は、義務です。


(「小飼弾の「仕組み」進化論」p142より抜粋)

「決戦は金曜日」ならぬ政治家にとっては「決戦は木曜日」かと思われた6月2日「100%政局不信任決議攻防」はまさかの鳩菅会談によって空回りに終わったと思いきや、今度は「一定のメド」がいつなのかという攻防に突入し、もう何が何だか分からない状況。
原発がメルトダウンしているが、政治も臨界点を突破し完全にメルトダウンしている。
もはや誰にとっても(政治家にとっても)政治というものが「制御不能」に陥っているのでしょう。
もはや原発と政治の状況が完全にリンクしているじゃないかと思えてしまう。
もちろん悪い方にですけど。
「新世紀エヴァンゲリオン」風に言えば原発と政治状況が「シンクロ率100%」状態。

ここまでの政治状況になる前、参議院選にて民主党が大敗し参院にて民主・国民新連立与党が参院で過半数割れ。
民主党お得意のブーメラン効果により、ねじれ国会により政権運営がゆきづまるという与党と野党の立場が入れ替わっただけのデジャブが出現。
菅内閣は野党に協力を引き出そうと、いろいろ模索し始めることになります。
某野党の某幹部の話として「菅総理は人望も人気もない」と協力できない(しにくい)理由を挙げました。
発言には政治的な意味合いがあるので100%本心から出ているとは限りません。
あくまで協力しないために理由づけなのかもしれません。
しかし、この発言が本当だとすると、発言の後半は「支持率が低い」ということでしょう。
小泉さんの逆だと。(今考えると小泉さんが良かったのかどうかは分かりませんが、小泉さんの評価は後世、歴史として評価が定まっていくでしょう)
前半の部分(人望)は実際に菅総理にお会いしたことがありませんが、おそらく「イラ菅」と呼ばれる部分が大きく関わっているように思います。

本当かどうか分かりませんが、原発現場の作業員の証言として「菅総理が視察に来た時「俺はこんなことをしに来たんじゃない」と言ったことをどなり散らしていたというものがありました。
作業員も「意味がわからない」とおっしゃっていましたが。

世の中にはパワハラというものが存在します。
私はよく分かりませんが、どうやらパワハラには2種類あるようです。
1つ目は「元々パワハラを行う人の人格に問題がある」場合。
しつこくいやがらせを行うパターン。
2つ目は「頭に血が上ると全く制御できなくなってしまう」場合。
普段はまとも(場合によってはいい人ですらあることもある)なのですが、頭にくることが起こるともうどうにも止まらない。
自分では、指示や指導、反省会のつもりなのかもしれないけど、もはや罵倒にしかなっていない。
罵倒からは何も生み出さない。
というか罵倒するくらないならしない方が断然よい訳です。
よほどのど変態以外、誰も罵倒されたくありません。
誰が罵倒する相手と関わりたいと思うでしょうか。

それは総理であっても同じです。
相手が高級官僚であろうが、政治家であろうが、(東電のような)民間人であろうが同じです。
大人の社会なので総理に向かって「そんなどなり散らして人徳のかけらもない人ですね」とは言いませんが、「なるべく関わりたくない」と思うことでしょう。
仕事をしていれば「悪い情報」を報告しなければいけない事もあります。
自分がミスした場合もあるでしょうし、ミスしなかった場合でも。
そんなときに罵倒されるのが分かっているのに進んで報告に来る人がどれだけいるでしょうか?
最小限の報告で済まそうとするのが人間の心情です。
このような状況では情報は集まってきません。
実は情報と言うのはinformal(非公式)な情報の方が大事であったりします。
正式な報告や報告書に書いているわけではなく「実は・・・」というinfomalな情報がモノを言う。
利益関係を抜きにして自分がinfomalな情報をもらえるような人間にっていられるかどうか。
infoemalな情報をもらえるかどうかというのは結局は「人間性」の問題なのでしょうが、少なくとも気に入らない事があると罵倒しているようでは、善意によるinformalな情報は集まりません。
むしろ「誰があいつに教えてやるものか」となってしまいます。

怒り方にも方法があります。
私は未熟者なのでその方法を会得している訳ではありません。
しかし気に入らなければすぐどなり散らすようでは、何も解決できないこと位は理解できます。
先日「NHKスペシャル」にて菅総理が東電幹部に「撤退は許されない。60歳以上の人間は現場に行って、自分たちでやる覚悟を持て」と言い放った様子を再現していました。
twitter上では「何言っているんだ?」という意見と「正しい」という意見が交錯しているようでした。
震災が起きてからの東電・政府のやり取り全体をその場にいて見ていたわけではないので断定はできませんが、菅総理のこう言った言動はあまりうまくないように思います。
確かになんでもかんでも「いいよ」「いいよ」はこれまた相手方の気がゆるんでしまってよろしくありませんが。
普段「イラ菅」なんて言われている人物に「撤退は許されない。60歳以上の人間は現場に行って、自分たちでやる覚悟を持て」なんて言われるとどう思うか。
「うるせえ、クソジジイ。てめえも60歳超えているんだからお前こそ現場で放射能を浴びてくたばっちまえ」と言う気分になってしまいかねません。
正しい/間違っているという問題である前に、目の前にいるのは人間であり、人間を相手にしているわけですから、正しい/間違っているという道徳論だけで物事が進んでいるわけではありません。

先日あるTVザッピングしていると某番組にて「国民の中で人気のある歴代総理の1人が田中角栄だ」という調査結果を紹介していました。
その理由はまでよくわかりませんが、「本気かな?」という気がします。
今は「ちょっとお金に汚い」というだけで政治家をぼろくそに引きずり倒す状況ですから。
「金には汚いけど政治家としては超有能だから(もしくは他の政治家に比べればマシだから)許す」なんて言う寛容な精神を国民はほぼlostしているように思えます。
100点満点でなければまるで0点の悪魔であるかのような風潮です。
この辺の問題は以前の「朝からズバッと切り捨てているTV番組はおとぎ話の世界なんだと気づかなければならない」にも通じる話でしょうけど。
田中角栄を多くの国民が支持するのはある種のノスタルジックな気分なのかもしれません。
「あの時代は良かった」と。
おっさん/おばさんが自分の学生生活を懐かしんでいるようなものかと。
悪い面はすべて切り取られて良い面だけが残ってまるで一転の曇りがないような状態。
それでも菅総理にしてみれば田中角栄なんて悪の権化かもしれません。
市川房江氏の選挙ボランティアから政治家人生をスタートさせたという菅総理にとって田中式政治スタイルは許容できるものではないのかもしれません。
しかしながら人の叱り方は圧倒的に田中角栄の方がうまかったようです。
こう言った面が国民の支持を受けている理由の1つかもしれません。
叱り方がうまいということは人の使い方がうまいということにつながっていきますからね。

「田中角栄の実践心理学」という本に田中角栄が郵政大臣に就任した時の話が紹介されています。(p168~171)

郵政大臣に就任した田中角栄は「どうも省内の省内の空気がおかしい」と感じたそうです。
田中角栄は昼休み急きょ省内の見回りを実行。
通常大臣が来る場合事前に通告しますが、あえて不意打ちをかけて実態を見ようと。
いくら昼休みとはいえかなり風紀が乱れている。
慌てる職員を尻目に「まあまあ、そのまま、そのままで」と対応したがいつもと違い、全く顔は笑っていなかった。
案内役の課長に「昼休みだからな。まあ何事も一切不問に付すが、・・・・しかし、それにしても見事なだらけようじゃないか。えっ!なんだ、この様は?」と睨みつけると足早に大臣室へ。
まさに見事な緩急をつけたスタイル。

世間で言われているようであるならば菅総理では「なんだ、バカ野郎!いくら昼休みだとはいえひどすぎるだろう!この税金泥棒めが!!」と罵倒しかねません。
確かにそれは正論なのでしょう。
しかし大臣がやるべきことは道徳(修身)のお題目を唱えることではありません。
組織をよりよく動かしていくことです。
田中角栄はもしかするとあえて「昼休み」に抜き打ち視察を行ったのかなとすら想像してしまいます。
就業時間中ではさすがに(表面上は)仕事をしているかもしれません。
それでは実態は見えない。
逆に就業時間中も風紀が乱れまくっていれば職員に逃げ道がなくなってしまいます。
「昼休み」という時間帯が実態をより反映し、かつ職員にも逃げ道を作ることができる。
田中角栄にしても「昼休みだから不問に付す」と言える。
絶妙なタイミングです。

ちなみに田中角栄は風紀の乱れの原因(ボス2人が派閥抗争を引き起こしていた)を突き止め、対処したそうです。
その後省内の空気は一変し見違えるように良くなったとのこと。

確かに今の政治家にも少しは見習ってほしいものです。
官僚を善悪二元論の中で「完全なる悪」に見立てて票を取ろうとするのはいかがなものでしょうか?
「政治主導」であるならばなおさらです。
会社でいえば社長や役員が自分の社員達をボロクソに言っているようなものです。
株主や取引先やお客様に社長や役員が「うちの社員はろくでもないがん細胞みたいなものだ」と声高に公言していたら「おかしい」と感じるのが一般的なのではないのでしょうか?
しかし相手が官僚だと「おかしい」という話にならない。
勿論官僚達が起こしている問題があるのも事実。
善悪二元論ではないのだから、官僚が完全に善であるわけでもない。
「悪いことは粛々と正していき、良いところを伸ばす」
地味だけどこれしかない。
「官僚はロクでもない」としか言えない政治家達は昔「鬼畜米英」と言っていたのと変わらない。
たとえ勝つにしろ米英との戦争はいずれ終わる訳で、いずれは米英とは外交関係を築かざるを得ないわけだから。
まさか日本はアメリカを完全に占領し、植民地にでもするつもりだったのか?(イギリスは勢いに乗ったナチスドイツが占領し、フランスみたいに傀儡政権ができることを想定してたのかもしれないが)

あまり実名を挙げたらいけないのかもしれないけど、野党時代に年金記録問題をまるで自分が大臣になったら解決できるかごとく振舞っていた厚生労働大臣はどこに消えたのか?
まともに人を使うことができず、しまいには党内の政治家たちにあまり相手にされていない模様。
マスコミもあまり取り上げず、今に至ってはどこで何をしているのか動向すらよくわからない。
消えた年金ではなく、ご本人様がどこかに消えてしまった。
32歳の日本国民としては年金問題(と言っても消えた年金ではなく年金制度の再設計の方)をどうにかして頂きたかったのだが、年金再設計もいまだにどうなっているのか分からない。
復興優先でさらに先送りの予感ですね。
残念です。

ちなみに先ほど取り上げた「田中角栄の実践心理術」によると大蔵大臣時代の次のようなエピソードが紹介されています。(p196~198)

所得税法改正案を閣議決定。
いよいよ法案を通過するかどうかと言う時、時の大蔵省主計局第一課長が真っ青になります。
最も重要な税率表に誤りがあったのだ。
単純な入力ミスだった。
大蔵大臣の進退に及ぶかもしれない問題だった。
上司に相談すると「おまえもタダじゃすまないよ。俺も、局長も、首が飛ぶかもしれない」と言う。
この第一課長はとりあえず辞表を胸にしたため田中角栄蔵相のところへ。
田中蔵相は「なんだ。神妙な顔つきで何かと思えば、そういうことか。気にするな。辞表なんて出さなくていい。まかしとけ。日本のソロバンが、世界一のホストコンピューターに勝ったっていうことだろ」と言って笑うと、修正の紙を持って、大臣室を飛び出しって行ってしまった。
どこでどのようにしたのか分からないが大臣が訂正を報告しても野党はノーリアクション。マスコミも無反応。
特に何事もなく過ぎ去ってしまった。
元課長の次のコメントが印象的です。

「田中さんという政治家は、我々官僚の泥を被ることに、何のためらいもなかった。そして一生懸命働いている過程の失敗は、徹底的に関係者に根回しをしてかばってくれました。だから、我々はいつでもあの人を信じて思い切って仕事ができたんです」

このようなことをされれば悪い情報も入って来やすくなります。
当人たちは勿論、このような話は伝播するでしょうから「田中角栄はミスを庇ってくれる」となります。
このように振舞って権力を持っているリーダーに悪い情報も入ってくるわけです。
もしかしたら田中角栄もはらわたが煮えかえっていたのかもしれません。
冷や汗ものだったのかもしれません。
笑ったのもやせ我慢だったのかもしれません。
たとえやせ我慢だったとしても「笑顔」でいないと悪い情報は本人のところに来ない訳です。
やはりリーダーの笑顔は義務なのですね。

さて最後にこの本に紹介されているある人の言葉(p38)を紹介して終了したいと思います。
ある人とは竹下登元総理です。
結局は田中角栄を裏切り竹下派を作り、総理大臣になった人です。

怒ると、何もかも失うんだ。それをほとんどの人間は知らないで生きている。だから怖い

菅総理がつまずいたのも案外これなのかもしれません。
そして政治家以外の多くの人たちも多くの人たちがこれでつまずいている。
つまずいた理由は他の理由に見えるから自分では全く気付かない。
気をつけないと。

参考・・・楽天ブログにおける「田中角栄の実践心理術」のレビュー「正しい大きな目標設定ができて、かつ細やか

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