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帰郷
萩原 朔太郎
わが故郷に帰れる日
汽車は烈風の中を突き行けり。
ひとり車窓に目醒むれば
汽笛は闇に吠え叫び
焔(ほのお)は平野を明るくせり。
まだ上州の山は見えずや。
夜汽車の仄暗(ほのぐら)き車燈の影に
母なき子供等は眠り泣き
ひそかに皆わが憂愁を探れるなり。
嗚呼(ああ)また都を逃れ来て
何所(いずこ)の家郷に行かむとするぞ。
過去は寂寥の谷に連なり
未来は絶望の岸に向かへり。
砂礫(されき)のごとき人生かな!
われ既に勇気おとろへ
暗澹(あんたん)として長(とこし)なへに生きるに倦(う)みたり。
いかんぞ故郷に独り帰り
さびしくまた利根川の岸に立たんや。
汽車は曠野を走り行き
自然の荒寥たる意志の彼岸に
人の憤怒(いきどおり)を烈しくせり。
前橋市敷島町
今、この橋 渡れないようだ。
2026.1.2



