おもんばかる気持ち | 文学座公演『麦の穂の揺れる穂先に』公式ブログ

おもんばかる気持ち

みなさま。無事に『麦の穂の揺れる穂先に』全公演日程を終了いたしました。本当にありがとうございました。



門倉しおり役の千田美智子でございます。今回の公演について、少しだけこの場を、お借りしてお話させてください。



稽古期間を含めると約2カ月間。あっという間に過ぎてゆく日々でした。私にとっては、文学座デビュー戦だった今回の本公演。関係者一同、心から好きになり、大切にできた作品に関わることができて大変光栄に思います。



私は、毎回3場の最後のシーンを袖から楽しみに見ています。丁度自分の準備はすべて整っているものですから。鎌倉での千秋楽の時に、出演者やスタッフみなが、袖から舞台で起こっていることを、ニコニコしながら見ていることに気づきました。こんなに、舞台を創っている側が、毎回新鮮に楽しんでいる舞台にはそうそう出会えない。なんて素敵な座組みなのだろうかと心がブワッと暖かい気持ちで満たされました。そして、演劇の神様なる方がいるのだとしたら、その方に「このような場所を提供して下さったことを感謝しよう」と思いました。宗教心などは、全くない私ですが、そう思わずにはいられませんでした。



「演劇の神様。ありがとうございます。」



舞台というものは、役者スタッフ一丸となって、作品を愛することができるとこんなにまで、楽しく素敵な公演が出来るんだなぁ。ということを初めて知ることができました。役者とスタッフがお互いを思いやり、お互いのためにベストを尽くそうと思えることで、立ちあがってくるものなんですね。



そして、立ちあがってきたものを、お客様に見て頂く。なんとも、手間のかかるものなのだろうかとも、感じられずのはいられませんでした(笑)しかし、そう簡単に、手に入れられるものよりも、手間をかけて出来上がった、純度の高い表現ほど、美しかったり、かけがえのないものになるのだと思いました。



私自身が、稽古や本番を通して得たものを何か挙げるとするならば「おもんばかる気持ち」でしょうか。自分勝手にするのではなく、ほんのちょっと立ち止まって見て、周りを見て見る。周りや、目の前にいる相手のことをちょっと考えてみる。このことを感じなら、2カ月を過ごしてきたように思います。



これは、私に限らず、座組み全体にあったように感じます。そして、驚くかな、その気遣いは立ち上がった作品に、十分に沁み出ていたようにも感じられます。



本当に、貴重な体験の2ヶ月間でした。



私の今までの、短い演劇人生の中で、最も栄光な時間となりました。そして、今後どこまで続くか分からない、私の演劇人生にとってもかけがえのない時間になることでしょう。



みなさま、このような、私にとって貴重な時間にお立ち会い下さいまして、本当にありがとうございました。



では、最後に私が4場で舞台上で、実際に撮影している写真を掲載しておわかれしたいと思います。



奥から、金内さん。道子さん。坂口さん。後ろ姿の江守さん。
文学座公演『麦の穂の揺れる穂先に』公式ブログ


そう言えば、最後にこぼれ話をひとつ。

劇中に―大船で押し寿司買って―というエピソードが出てきます。その話について。今年お亡くなりになってしまわれた、劇作家の井上ひさしさんと、交友の深い今作品の作家平田オリザさん。



「井上先生は、よく稽古場に大船の押し寿司を買って、遊びに来てくれていたんです。その思い出を書きました。」とおっしゃておられました。



井上ひさしさんの言葉の一つに「記憶せよ。生き延びよ。」という印象的な言葉があります。確か、唯一の被爆国である日本、広島に対して投げかけた言葉だったように記憶しています。私もこれから、沢山の人や、巡りあわせに出会うわけです。その一つ一つの出来事を、丁寧に記憶してゆきたいと思います。



それでは、また、みなさまの前にお目にかかれますよう精進致します。

本当に、ありがとうございました。

また、逢う日まで。



門倉しおり役 千田美智子