108 、上京五日目.5

守叔父さんの自宅の中に入る事ができ、その生活状況を把握する事ができた。

朝駆けを無事に成功させたこととなり、胸がしめつけられるような緊張感から徐々に力が抜けて、リラックスできるようになっていた。

精神的な余裕を取り戻すことによって、気がついた事があった。

気がついた事とは、守叔父さんの話し声がとても小さいことである。

私もまた、その守叔父さんの声量に合わせて、自然に小さな声で話していた。

ヒソヒソ話のような会話が続いていたのである。

鉄筋コンクリート建てのマンションの部屋であるので、それなりの壁の遮音があるだろうから、ヒソヒソ話をする必要はないだろう。

そのことに気がついた私は、あえて、通常の声量に戻して話してみた。

すると、守叔父さんは、自分の口元に指を立て、「シー」と言った後、その指で、守叔父さんの両隣の部屋をそれぞれ指差して、「ダメ、ダメ」と小さな声で言った。

隣室とのトラブルを避けるために、小声で話していることがハッキリした。

見た目と異なり、隣室との防音性能が悪い建物なのだろうか? 

平日の朝6時過ぎだとまだ、就寝中の人が多いかもしれない。

生活リズムの異なるお隣さんが居住しているのだろう。

ともかく、守叔父さんは、ご近所さんに迷惑をかけない様に、周囲を気にしながら静かに生活している事もわかった。

 





しばらくすると、守叔父さんは外出する準備ができたようだ。

腕時計を確認すると7時過ぎであった。部屋に入ってから、すでに1時間経過していた。

どこに行くのか確認するために、

 

「仕事に行くの?」



と問うと、

 

「キョウハ、イカナイ」
(今日は、行かない)



との答えが返ってきた。

 

「今日、仕事は休みなの?」



と聞くと、

 

「ソウ」
(そう)



との返事が返ってきた。元々の守叔父さんの予定では、本日は仕事に行くと言っていた。念のため、

 

「いつ、休みが決まったの?」



と聞いたものの、

 

「イカナクテ、イイノ!」
(行かなくて、良いの!)



としか答えてくれず、仕事の予定がいつ変わったのか教えてもらえなかった。 徒歩で行ける範囲の職場のようだったので、

 

「職場は近いんでしょ!
会社は何処なの?
どっちなの?」



「東西南北」をそれぞれの方位を指差しながら尋ねたものの、守叔父さんは答えてくれなかった。

なんだか、私が職場に近づくことを嫌がっており、首を横に振って、嫌がるような表情をしていた。

何らかの仕事上のトラブルが起こったのだろうか・・・? 

トラブルのため仕事が休みになったのだろうか・・・?

(つづく)