70 、上京三日目.12
守叔父さんは、何を失敗したのだろう?
「65キロ」とは何だろう?
私に向けられた守叔父さんのiPhone画面を注視すると、たしかに「65」という数字が表示されていた。そして、「65」は一つしかなかった。
その数字は、バッテリー残量を表している数字であった。つまり、バッテリー残量が減っている事に気付き、充電を忘れた事を「失敗した!」と表現したようだった。
当然ながら、その数字の右隣の文字は「%」であった。
それにしても、なぜ、守叔父さんは、「パーセント」を「キロ」と言ったのだろうか?
明らかに”おかしな事”を言っている守叔父さんではあるが、単なる言い間違いなのか、「パーセント」を「キロ」と読み間違える理由があるのだろうかと少し考えた。
昨日の守叔父さんは、私の視力では見つけられない程の遠くの小さな飛行機を見つけることができた。 このことから、守叔父さんは遠視か老眼の可能性があり、近いものは見づらいのかもしれない。
焦点が合わず、ぼやけた「K」と「%」は、見た目が似ているのかもしれない。 そんなことがありえるのだろうか・・・?
遠視か老眼のために、近くのものがよく見えないと仮定すると、同じ文字の大きさである数字が読めていることが疑問となる。 そのため、「%」が見えない事はないだろう。 そして、「%」が見えなくても電池残量は「パーセント」だろう!!!
「%:パーセント(百分率)」の言葉がわからないのだろうか???
この時点では、「%」と「K」の区別がしづらく、「K(キロ)」と見えていると思うことにした。
「%:パーセント(百分率)」を理解できない守叔父さんを認めたくない自分がそこにはいたからだ。
そして、私は「65%(パーセント)あれば、大丈夫でしょう!」と正しく伝えた。
守叔父さんは、少し不満そうであったが、その後、画面を自分に向け続けてiPhone操作を始めた。 しばらくして、
「ミテ! ミテ!」
(見て! 見て!)
と言いながら、iPhoneの動画を私に見せてくれた。
動画は、飲食店内で撮影されたもののようだった。
そのお店には、こじんまりはしているものの、立派なステージがあった。
しばらく動画をみていると、そのステージ上では生の琵琶の演奏、大きな刀を振り回す演舞、そして、瞬間に仮面を変える「変面」と言われる中国伝統芸能の一つなどが披露されていた。
ステージ上以外の店の雰囲気も、日本的ではなかった。
守叔父さんの言葉による説明では「中国」という国名は出てこなかったが、ジェスチャーによる説明によって、遠い遠い所で撮影されたものであるようだった。
私は、
「叔父さん、中国に行ったの?
中国のお店の映像?」
と質問すると、
「ソウ、ソウ」
(そう、そう)
と答えてくれた。 生音楽や演舞などのステージを見ながらの食事! 一体どのくらいの金額の食事代がかかるのだろうか? と疑問に思っていたら、
「ムコウハ ヤスイノ!
スゴイ ヤスイノ、
ヨニンブンデ ゼンブデ
ニジュウマンエンクライ。」
(向こうは安いの!
スゴイ安いの、
四人分で全部で
20万円位。)
と言い出した。 四人で20万円の食事を安いと言うのだろうか? 一人あたり5万円の食事は高いだろう!
確かに、ステージのあるレストランなので、高級そうにもみえるが、超が付くほどの高級感ではなかった。
20万円が安いとは、一体どういうことなのだろう??? 守叔父さんと私の金銭感覚は、そんなに違ってるのだろうか・・・? 思わず、
「20万は、安くないでしょ!」
と伝えると、しばらく悩んだ顔をしたあと、
「ニジュウマンノ・・・
モトイ、ニマン。
ゴニンデ、ニマン。」
(20万の・・・
もとい、2万。
五人で二万。」
と守叔父さんは言い直してくれた。
一人四千円位の食事ならば、妥当な金額だろう。 生演奏、演舞があってその金額ならば「安い!」と言えるだろう。
「東京だったら幾らするのだろう!
焦ったよ!
守おじちゃん、沢山稼いでいたから!
金銭感覚が違うのか!と思ったよ。」
と伝えた。 単に数字の"桁(ケタ)"を言い間違えただけのことであったので、ホッとした。
(つづく)