48 、上京二日目.22
守叔父さんの運転するクルマに再度乗り込み、駐車場の出口を目指した。
ゲートバーの手前でクルマを一旦停止し、パーキングチケットを料金精算機へ差し入れると、その直後にゲートバーがスーッと上がった。すると、守叔父さんが、
「ホラ、オカネイラナイ!」
(ホラ、お金要らない!)
と言った。その口調には、言外の意味が含まれているように感じられた。特に、「ほら」という言葉には”俺の言ったとおりだろう!”という風なニュアンスが含まれていた。
なぜ、駐車料金が無料になったのだろうか・・・? そして、なぜ、”俺の言ったとおりだろう!”という風に言うのであろうか・・・?と頭を捻った。
すると、ハッと、私の頭に閃(ひらめ)きがあった。
その閃きのおかげで、この駐車場に乗り入れる直前に、守叔父さんが言っていたチンプンカンプンな言葉が何を意味していたのか、おぼろげではあるが理解することに至った。
(チンプンカンプンな言葉は、『「泣けない人」その38、上京二日目.12』に戻り、ご覧ください。)
駐車場に入る前に、私には理解できなかった守叔父さんの言葉は、イトーヨーカドーの駐車料金のシステムの説明であったと思われる。お買い物などをすれば、駐車料金が無料になるという事を伝えたかったのだろう。
後に、駐車料金のシステムを調べてみると、2時間以内の駐車料金は無料であることが分かった。お買上げ1000円以上、セブンカードプラス提示で3時間無料。お買い上げ3000円以上で4時間無料であった。
うどんを食べるために滞在した時間は、1時間足らずだったため無料だったのである。
つまり、駐車場に入る前に、入場ゲートのある駐車場ではあるけれど、無料で利用できることを事前に伝えたかったことになる。
守叔父さんが「全然、お金取られない。」と言うべきところを、「ゼンゼン、オカネ、トレナイ(全然、お金取れない)。」と言ったために、私は意味が分からなくなってしまったのである。
守叔父さんは、助動詞「れる・られる」の表現が、うまくできなくなっているのかもしれない。
私としては、その時の言葉のすべてが理解できた訳ではないが、部分的ではあるが解明できたことに少しだけ安堵した。
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私が行き先を伝えると、守叔父さんがどこにでも連れて行ってくれるとの事なので、イトーヨーカドーの駐車場を出ると、城南島海浜公園に向かうことにした。
とは言え、私自身、久しぶりの東京なので、行き先を伝える事は難しい。 とりあえず、海に近づく方向へ向かってほしいと伝えた。
海の方角へクルマが進み始めて、少しの間だけ車内が静かになった。二人とも食事を終えて、胃に血液が回った分、思考能力が低下しているのかもしれない。
守叔父さんが話し出すまでは、私の方から話しかけることはせずに、次に何を言い始めるかを待つことにした。
すると、おもむろに、
「ハァー、タノシイ!」
(はぁー、楽しい!)
と、守叔父さんが言葉を発した。その言葉には、深い感情が込められているように感じた。 続けて、
「モウ、オレ、イマ、ヒトリッコ デサー、
ゼンゼン、ダメダッタカラ、
アナタハ、イイ!」
(もう、俺、今、一人っ子でさー、
全然、ダメだったから
あなたは、良い!)
と、言った。
守叔父さんは、”今、一人っ子”らしい!!!???
先に述べた通り、守叔父さんは実際には7人兄弟姉妹の末っ子であり、 私の母は守叔父さんの実姉である。それなのに、”今、一人っ子”とは?
おそらく、 ”今は一人暮らし”って事を言いたいのだろう。
私の何が良いのか分からないので、「いや、いや、いや」と否定した相づちを打つと、今度は、私に向かって、
「ヤサシイ!」
(優しい!)
と強い口調で言ってきた。 一体、私の何が良くて、何が優しいのだろう・・・?
そして、
「モウ、オンナハ ダイキライダ!」
(もう、女は大嫌いだ!)
と言った後、少し笑ってから、
「デモ、アノナ、チョウジョノ、
アノ、オンナノコハ、ヨカッタ ナァ、
ダイスキ ダッタ。」
(でも、あのな、長女の、
あの、女の子は、良かったなぁ、
大好きだった。)
と、しみじみとした口調で言った。そして、少し間をあけた後、気持ちを切り替えるためなのか、
「サァ、イキタイトコロヲ
イッテクダサイ。」
(さぁ、行きたいところを
言ってください!)
と、少し気合の入った声を発した。
(つづく)