46 、上京二日目.20
守叔父さんの口から発せられた『逮捕してくださいと言ったら』との言葉がとても気になり、その詳細を探りたくなった。 しかし、フードコートで食事している時に、深入りする話ではないと考えて、聞き出すことは保留した。 現状、年金の事を聞き出せていないので、年金の事から聞き出そうと思い、「年金は貰えるんじゃないの?」と再々度、聞き返した。
しかし、守叔父さんは、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と笑ったのち、
「デモ、ソッチハ、アレダヨネ、
チョウジョガ、イチバン ヨイヨネ。
スエッコハ ダメダヨネ。 ホントニ! 」
(でも、そっちは、あれだよね、
長女が、一番良いよね。
末っ子はダメだよね。ホントに!)
と言い、年金に関しての答えが返ってこなかった。
言葉を替えて、「年金自体、掛けてなかったの?」と質問すると、またまた「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と笑い続けた。 何が面白いのだろう・・・?
守叔父さんが笑っている間に、私はうどんを食べ終えることができた。すると、そのタイミングを見計らったように、守叔父さんは、
「オレモ ソウ シヨウ、
アソコニ イッチャオウ!」
(俺もそうしよう、
あそこ行っちゃおう!)
と言いながら立ち上がり、食器返却口へ向かって歩き始めた。
食後、その場でゆっくりと話ができれば良いと思っていたが、マイペースな守叔父さんは、せわしなく次の行動に移ってしまった。
結局、食事中に年金の受給状況を聞き出すことができなかった。 なぜ、年金の事を教えてくれないのだろうか? それとも、「年金」と言う言葉が理解できないのだろうか?
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食器を返却口へ戻した後、駐車場へ戻るため、エレベーターへ向けて歩きだした。
そのまま、駐車場へ戻るのだろうと思っていたら、守叔父さんはエレベーターホールの近くの店の前で立ち止まった。
クレープの写真が掲げられたデザート店であり、メニューを指差しながら、
「タベタイ?」
(食べたい?)
と声を掛けてきた。
うどんを食べた直後に生クリームの甘いものは遠慮したいな・・・。と思ったので、
「要らない!」と答えたのだが、守叔父さんは、ニコニコした表情で繰り返して、
「タベタイ?」
(食べたい?)
と、声を掛けてきた。 何だか、注文しないと納得しなさそうな感じであったので、飲み物のお品書きがあれば良いな・・・。と思いながらメニューを見ることとした。
メニューの中に飲み物のリストがあったので、その中からバナナミルクを注文することにした。
注文した後に、守叔父さんは、
「オンセン ニ、イッテキテイイ?」
(温泉に、行ってきて良い?)
と、突然言い出した。
イトーヨーカドー店舗内で、”温泉”とは、何だろう・・・? と戸惑ったが、守叔父さんの発したその言葉には、即決の判断を求めるような感じと共に、懇願するような感じを含んだニュアンスであったため、「どうぞ!」と即答した。
すると、守叔父さんは、くるっと後ろを向いて、そそくさと歩き出した。エレベーターホールの横を通り過ぎ、物陰に消えていった。
イトーヨーカドー店舗内に”温泉”があるのだろうか?
守叔父さんは、”温泉”の営業時間を確認しに行ったのかもしれない。
営業時間内ならば、のんびり湯船に浸かりながら話ができるかもしれないな・・・。などと考えながら、クレープ屋の前で一人で待つことになった。
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しばらく待っていると、スッキリした表情の守叔父さんが戻ってきた。
”温泉”の営業時間はどうだったのだろうか?と思っているところに、ちょうどバナナミルクが店奥から出てきた。
守叔父さんは、支払いを済ませ、バナナミルクを店員さんから受け取った。
”温泉”について、何の報告も無いので、営業時間外だったのかもしれないと思った。
私は、クルマに乗る前にお手洗いに行こうと思い、守叔父さんに「トイレどこかな?」と
尋ねた。すると、先程、守叔父さんが行き、そして戻ってきた方向を指差した。
トイレと”温泉”が同じ方向にあるならば、”温泉”を調べることもできる!と思い、「チョット行ってきます。」と言って、私はトイレに向かうことにした。
守叔父さんに指差された通路の奥には、トイレへの行き先を示す案内板しかなく、”温泉”らしき案内板ははなかった。
トイレで用を足したのち、個室トイレの中も覗いてみたが、特に変わったものを見つけることはできなかった。
守叔父さんの言う”温泉”とは、何だったのだろう? それとも、トイレの事を”温泉”と言ったのだろうか? もしそうならば、なぜ、トイレを”温泉”と言ったのだろうか?
(つづく)