マレーシア駐在員時代、80年代のことですから、日本から一日遅れで送られて来る日経新聞を見ていると、前年度のホテル人気投票結果の記事が出ていました。
”宿泊客が選んだ世界人気No.1のホテル”という見出しを見て、ヒルトンかリッツカールトンかと思って記事を読むと「バンコクのオリエンタルホテル」と出ていました。
“オリエンタルホテルって聞いたことないな”とその時は思って、数日してから、総合商社のKL駐在員のTさんと話をしていて、このことを話しました。
するとTさんは「ああ、この前、日経新聞にその記事出てましたよね」と言うので「アメリカやヨーロッパの有名ホテルでなくてタイのホテルって、なぜなんでしょうかね」と言うと、「それは泊まったことのない人でないと分かりませんよ」。
「え、Tさんは宿泊したことがあるのですか?」と聞くと「6年前に初めて宿泊しましたが、それ以降、バンコクではオリエンタルホテルにしか泊まりません」と言って、初めて宿泊した時のことを話してくれました。
Tさんは数日の休暇を取って、奥さんと当時1歳の息子さんの3人でタイへ旅行へ行き、オリエンタルホテルにチェックインしました。
以下はTさんから聞いた話です。
チェックインカウンターには二十歳ちょっとにしか見えない若い女性スタッフがいて、“微笑みの国”ならではの飛び切りの笑顔で迎えてくれました。
チェックインを済ませてルームキーをもらった後、妻が、その女性にこう聞きました。
「ドラッグストアはこの近くにありますか?」すると女性は「はい、あそこのメイン出口を出て右に300m程行ったところにありますが、どなたか、お加減が悪いのでしょうか?」と心配そうな顔で聞いてきました。
「いえ、そうじゃなくて、この子のオムツが切れてしまって、買いに行かないといけないもので」。
すると女性が「そうですか。可愛いお嬢さんですね。今何歳ですか?」と笑顔に戻って聞かれたので、「いいえ、この子、男の子なんです。今、1歳半です」。
部屋に入って、荷解きをしていると、ドアフォンが“ピンポ~ン”となったので、ドアを開けると先程の受付けの女性があの笑顔で立っていました。
そして「これをどうぞ」と差し出したのが、1歳~2歳の男の子用のオムツで「もし、サイズが合わなかったり肌触りが良くなかったら、言って下さい。違うものを買って来ますから」と。
「あ、大丈夫です。このブランドはマレーシアで使っているのと同じですから。
それで代金はいくらですか?」と聞くと「いいえ、結構です」と言って、また笑顔でフロントに帰って行きました。
このことがあってから私はビジネスでもプライベートでもオリエンタルホテルにしか泊まりません。
Tさんの話は以上ですが、私が感じたのは次のことです。
フロントの女性は、お客さんからドラッグストアの場所を聞かれた時、その場所を答えた(answer)だけでなく、お客さんのニーズを聞いてresponse(応えた)わけです。
そして、更にスゴいと思ったのは、まだ若い女性スタッフに少額とはいえ接待費も持たせていることです。
接客業や営業で最も大事なのはリピーターを作ることです。
リピーターとなった人は知り合いに自分が経験したことを伝えて、これが新規顧客を作ることになります。
営業の本質を再認識させてもらえたTさんの体験談でした。