前章で書いたように、カーメーカーと部品納入者の間では半年に一度、必ず価格改定があります。

 

各カーメーカーから、次の半期の納入価格の値下げ率が提示されて、それを社内に持って帰り、シュミレーションを繰り返した結果をもってカーメーカーと価格交渉するという仕事ですが、これが大変な仕事量になります。

 

カーメーカー1社で最低何百という納入部品があり、私の会社の場合、厚さ・色別素材単価(十数種類)✕部品m2、エッジ面取り単価、穴あけ単価、表面加工費、などを部品毎に計算しないと一つの部品の納入単価は出ません。

 

カーメーカーから「時期6ヶ月間の納入総金額で1.1%の原価低減をして下さい」と言われると社内に持って帰り、上司、東京本社の指示で「素材単価を2%安く」とか「現在の穴1個の単価15円を14円にして」とか「面取り価格を5%下げて」などのシュミレーション指示が出ます。

 

本社や上司は簡単に「穴1個の単価を1円下げたら全体で何%の値下げになるか計算して」と言いますが、部品1個づつ、“これは2個、穴があるから2円。この部品は穴が3個だから3円”と当てはめて計算していくわけです。

 

それを、昭和57年のことですから、紙の表を作って、一つ一つ計算していくといく気の遠くなるような作業です。

 

そこへきて、そそっかしい私は数字の書き間違い、計算ミスがあり、当然、縦横の合計値が合わないところに加えて、普段のペーパーワークが終わった23時頃から始めるので頭は朦朧として、パフォーマンスは更に低下し、よりミスが増えるという悪循環です。

 

営業車の中で1週間、聞きながら学習した表計算の作り方を元に土日出勤して約一ヶ月かけて作業しました。

 

1982年のことですから、我々のような営業社員が使えるパソコンは大阪本社に数台しかなく、8インチのフロッピーディスクに入った表計算ソフトと格闘、何とか原単位表と部品単価表、更に各部品の納入予測量の表の3つが完成しました。

 

実際に過去に手計算でやったシュミレーションを試しに入力してみたところ、それまで2週間、徹夜を繰り返して、やっと出てくる計算結果が原単位表の数字を修正しただけで瞬時に出てくるではありませんか。

 

その頃、そんな言葉は影も形もなかったのですが、正にIT革命です。

 

ただ、このことは東京本社にはオフレコにしました。

 

というのは、数分でシュミレーションが済むというのが分かると、シュミレーションのパターンが増えるだけで、業務は減らないだろうと読んだからです。

 

これに味をしめた私は他の業務にも表計算を使うようになり、連日、午前様帰宅だったのが、20時か21時には仕事が終わるようになりました。

 

当然、しばらくすると課長が気付いて「なんで、そんなに早く帰宅できるようになったの?」と聞くので、PIPSのことを話し、どうせ社内で知れることになるのだと思い、社内の改善提案として出すと金賞を受賞して十万円の報奨金をもらえました。

 

これに味をしめた私は再び計数部に行って、当時出たての日本語ワープロの使い方も教えてもらうことにしました。