柔道家だった父は家のテレビで野球やゴルフを観ることはなく、スポーツ番組といえば相撲やボクシングばかりだったので私も幼少時から格闘技が好きでした。

 

50歳になってから、ある出来事がきっかけで拳法を習うことになりましたが黒帯を取得した時、道場主から「市の武道館での練習で指導員をやってくれ」と言われ、また暫くすると「市民の無料体験会の取りまとめもやってくれ」と言われました。

 

私も1年前に、この市が開催する無料体験会で拳法を始めて、体験終了後に正式に入門した、いわゆるOBでした。

 

この体験会は、週1回の市の武道館での練習の時に2ヶ月間、無料で参加ができて、毎回30人程の体験入門者が参加して、そのうち2~3人が入門するというのがパターンでした。

 

私の時も約30人が体験コースに来て、そのうちの3人が正規の道場生となりましたが、体験会に参加する人の世代はバラバラで幼稚園の子から始まって中・高・大学生、また子供の同伴のお母さんや社会人もいました。

 

任されたからには、キチンとやろうと思いましたが、自分が体験参加した際に不満に思ったことがあったのと、長年の営業の癖がつい出てしまって、それまでにやらなかった体験参加者へのアンケート作りから始めました。

 

約30人集まった体験入門者の人に書いてもらうのは、今までのスポーツ歴、体験入門の動機、拳法を習って将来どうしたい、ということを書いてもらいました。

 

すると、幼稚園や小学校の子はその頃人気だった少林サッカーを観て興味を持ったとか、学校でのイジメに会わないようにとか、付き添いのお母さんはダイエットになることを期待してとか、若い女性の中には護身術として、また高校生や大学生はK1を見てやりたくなった、とか動機は様々でした。

 

それまでの体験入門者は幼児から大人まで全て同じカリキュラムをやらしていたのですが、基本練習が終わったら年代別、志望動機別のグループを作って、数人いる指導員仲間に、そのグループの合った練習してもらいました。

 

それは小さな子供には遊び心を刺激するようなゲーム的な内容を入れて、ダイエット希望のお母さんには突きと蹴りの反復による有酸素運動と道具を使わずにできる筋トレなど。

 

また本格的に格闘技としてやりたいグループには指導員が防具を付けて実際に打たせてあげたり、指導員同士の組み手もデモンストレーション的に行いました。

 

暫くすると道場主が「今回はいつもと少し違うなあ。最初の1~2回来てから、来なくなる人が多いのが、毎週ほぼ全員が参加してくる」と首を傾げていました。

 

2ヶ月間が終わる最後の回では、もう一度、アンケートで、体験した感想、良かったこと、悪かったこと、今後に望むもの、などを書いてもらいました。

 

回収したアンケートを読んでいると道場主が、「おい、今、入門希望の用紙を回収したら20人以上が入門したいと言ってきている」とあたふたしていました。

 

やはり、どの分野でも顧客のニーズを聞いて、それに合ったことを行えば成果が出るということを再認識した次第ですが、一つだけ思わぬところからクレームが出ました。

 

それは市の体躯課の方からで「勝手にアンケートを取るというようなことは困る。今後、前例のないことを行う場合は事前に市の許可を取ってからにして下さい」ということでした。

 

笑顔で「はい、申し訳ありませんでした」と言いましたが、心の中では“なるほど、これがお役所仕事か”と呟いていました。

 

暫くして国内外の出張が増えて、道場からは遠ざかりましたが、あの中から那須川天心や武尊、井上尚弥が出てきているのではないかと密かに思っています。