役所の閉まっている休日は私もH君も休みでH君はマレーシア大使館の駐在員に会ったり、観光をしたりと別行動になります。

 

モロッコに到着してすぐ三連休となったので、昔聞いた歌謡曲“カスバの女”のカスバに行きたくなり一人でホテルを出発しました。

 

カスバはアラビア語で“城塞”のことで、高い城壁に囲まれた小さな入り口のある街で、いかにもローカルというレストラン、喫茶、商店が立ち並んでいます。

 

昼前にカスバに入り散策、昼食を摂ったり、買い物をして夕方にはホテルへ帰る予定でしたが、これが大きく計画が崩れました。

 

カスバは外敵が攻め込んできた場合、迷うように迷路のような道になっていて、おまけに言葉が通じないので、すっかり迷ってしまいました。

 

今ならGoogleマップとGoogle翻訳で何とかなるのが、迷いに迷って、何とかカスバの外に出られたのは

夜の10時を過ぎです。

 

街灯もあまりない暗い夜道を疲れてクタクタになった自分を鼓舞してホテルへ向かっていたら、前方から数人の人影が。

 

すれ違った時にチラッと見ると大柄な男性6~7人で風体からして、ガラのいい連中には見えません。

 

無事通り過ぎたと思ったら後ろから声を掛けられましたが、これも何言っているか分かりません。

 

「シノワ」という単語だけ聞き取れ、それが“中国人”という意味だと分かったのは後のことでした。

 

すると中の一人が「Where are you from?」と英語で聞いてきましたが、その時点でK1のジェロブレ・バンナやバダ・ハリのような体格の大男達がグルリと私を囲んで“逃がさせないよ”、という雰囲気でした。

 

これは、正直に“From Japan”と言ったら、どういうことになるかは予測できます。

 

とっさに出たのが「From Korea」でした。

 

すると「Why did you come here」とテレビ東京の番組のような質問が来ました。

 

そこで思い出したのが昼間、ホテルからカスバに向かう途中で大きなスポーツ施設が有ったことです。

 

そこで「私はテコンドーの世界チャンピオンで、この地にデモンストレーションをするために来た」と言うと、その男は仲間に訳しましたが、少し怯んだ様子が見て取れました。

 

ここが突破口になると思い「君たち、テコンドーって知ってる?」とこちらから口撃に出ました。

 

ふと横にある電柱を見ると粗末な木の看板が。

 

これなら何とかなりそうと思って高校時代にカジッた剛柔流空手の型をしてから、大学時代に観た「燃えよドラゴン」のブルース・リーの様に“アチャ~~ッ”と叫んで看板を正拳突き一発。

 

するとサウジで見たタイ製品の輸出木箱のような粗末な作りの看板はパカッと真っ二つに割れました。

 

もう一度、“アチャッ~~”を繰り返して見得を切って、ブルース・リーのように鼻を触りながら男たちを睨むと、それは訳すことなく「Please」と開放してくれました。

 

すぐにでも走って、その場から逃げたいところ「君たち、明日のデモンストレーションにはぜひ来てくれたまえ」と言って悠然と歩き出しましたが、追ってくる様子はありませんでした。

 

ホテルに帰って右手を見ると看板を電柱に留めていた釘が刺さったのか血が出ていたものの「これですんだら御の字」と思うと同時に「テコンドーなら突きではなくて足技だったよなぁ」と反省しました。