以前から、ちょっと不思議に思っていた同僚がいる。

 

その人は、以前、別の部署でメンタルダウンして休職していた。

そして、復職することになり、私がいる職場へ異動してきた。

 

私は、本人から直接聞いたわけではないけれど、風のうわさで休職した理由を聞いていた。

 

PCが苦手で、事務作業ができなかった。

営業成績が、とても悪かった。

そして、仕事中に事故を起こしたこともあるらしい。

 

それを聞いた私は、

「そりゃ、相当つらかっただろうな」

と思った。

 

仕事がうまくできない。

周りから指摘される。

営業成績も上がらない。

さらに事故まで起こしてしまう。

 

そんなことが重なったら、

「自分はなんてダメなんだろう」

と、自分を責めてしまっても不思議ではない。

 

だから私は、勝手に

「きっと自責の念でメンタルダウンしたんだろうな」

と思っていた。

 

復職してきたばかりだし、まだ本調子ではないだろう。

あまり無理をさせちゃいけないよね。

そんなふうに、どこか気を遣っていた。

 

ところが。

復職後の打ち合わせで、その同僚が言った。

「主担当はまだできませんが、外出するときは連れて行ってください」

 

ここまでは分かる。

復職したばかりだし、まずはサポートからから。

 

うんうん。

すると続けて、

「外に出るのが好きなんで」

……。

 

えっ?

仕事だよ。
外出するにも交通費がかかるんだよ。
遊びではないんだよ。

 

 

私が聞いていた話と、本人の雰囲気がどうにも噛み合わない。

 

そして、私はずっと、

「この人は、なぜこんなに堂々としていられるんだろう?」

と思っていた。

 

申し訳なさそうでもない。

自分を責めている感じもしない。

 

むしろ、

「私はこういう事情があるので」

という感じで、当然のように自分の希望を伝えてくる。

 

そして最近になって、ようやくその理由が少し分かった。

 

どうやら、以前の部署で、

「事務作業ができていない」

「営業成績が上がっていない」

ということを、上司から指摘されたらしい。

 

それを本人は、

「パワハラ」

と受け止めたようだ。

 

そして、それがきっかけでメンタルダウンしたらしい。

 

ああ。

そういうことだったのか。

私が勝手に想像していたのは、

「仕事ができないことを指摘されて、自分を責めてしまった人」

だった。

 

でも、本人の認識は違った。

どうやら本人は、

「自分はものすごく頑張っているのに、仕事ができないと言われた」

という受け止め方をしていたらしい。

 

事務作業がうまくできない。

営業成績も上がらない。

それを上司から指摘された。

 

でも本人からすると、

「できないことを指摘された」

ではなく、

「こんなに頑張っている自分を認めてもらえず、できないことを責められた」

ということだったのだと思う。

 

そして、

「仕事ができないことを指摘された」

「ものすごく頑張っているのに、上司から責められた」

「これはパワハラだ」

「会社が原因でメンタルダウンした」

という流れ。

 

なるほど。

それなら、復職してきたときのあの堂々とした感じも、少し分かる。

 

本人の中では、

「自分が仕事ができなくてメンタルダウンした」

ではない。

「自分は頑張っていたのに、会社に傷つけられてメンタルダウンした」

なのだから。

 

そりゃ、

「私が悪かったんです……」

という顔にはならないよね。

 

むしろ、

「私は会社が原因でこうなったんです」

という認識なら、

「復職後は配慮してもらって当然」

 

それなら、私が感じていた違和感も、少し分かる気がする。

自分が悪かったと思っていないのなら、

「申し訳ありませんでした」

という気持ちになる必要もない。

 

むしろ、

「私は会社が原因でメンタルダウンしたんです」

という認識になる。

 

そして、

「だから、復職するときも配慮されて当然」

「私は普通の社員とは違う事情がある」

となる。

……なるほど。

そういうことだったのね。

 

もちろん、本当に上司の言動がパワハラだったのかどうかは、私は知らない。

そこは本人にしか分からないし、私が判断することでもない。

 

ただ、私が驚いたのは、

同じ出来事でも、本人の受け止め方と、周りが想像するストーリーは、こんなにも違うんだ

ということ。

 

私は、

「自分を責めてしまったんだろうな」

と思って、勝手に気を遣っていた。

 

でも本人は、

「私は会社によって傷つけられた側」

という認識だったのかもしれない。

 

だから、堂々としていたのかもしれない。

だから、特別な配慮を求めることにも、ためらいがなかったのかもしれない。

 

そして私は、ようやく腑に落ちた。

ああ。

この人の中では、

「私は悪くない」

が、最初から一貫していたのかもしれない。

 

私が勝手に、

「きっと自分を責めているんだろう」

と思っていただけだった。

人って、本当に分からない。

そして私は、またひとつ学んだ。

人の事情は、風のうわさだけでは分からない。

……まあ、それにしても。

 

「主担当はまだできませんが、外出するときは連れて行ってください。外に出るのが好きなんで」

と言われたときの私の、

 

「えっ? メンタルダウンしてたんじゃなかった?」

という心の声だけは、今でも忘れられない。