DKA(糖尿病性ケトアシドーシス:diabetic ketoacidosis)と HHS(高血糖高浸透圧症候群:hyperglycaemic hyperosmolar state)は高血糖緊急症と総称される。

これらはオーバーラップすることも多く明確に区別することは難しい。治療は補液,カリウム補正,インスリン投与を行う.

DKA,HHS の誘因となった疾患を見逃さない.

 

DKA はインスリン分泌の低下と拮抗ホルモン(グルカゴン,カテコラミン,コルチゾールなど)の増加によりインスリン作用が絶対的に欠乏することにより生じる疾患である.一方,HHS では内因性インスリンは保たれておりケトーシスはみられず,脱水や高血糖が主病態。

 

誘因は感染が最多。DKA,HHSを診断したら常に感染の合併を考えるべき。ただDKA 自体でも白血球上昇や血管拡張による体温上昇などがみられるため,感染が過剰診断されている可能性はある。他の誘因にはインスリンのコンプライアンス不良や急性疾患罹患,手術や手技に伴う減量や中止,心筋梗塞,脳卒中,1 型糖尿病の初発,膵炎,肺塞栓,アルコール多飲,ステロイドや利尿薬,非定型抗精神病薬などの薬剤が挙げられる。

 

DKA や HHS と診断するだけではなく,その背景にある誘因を見逃さないようにしたい.

また DKA の 2/3 は 1 型糖尿病といわれるため,膵機能や自己抗体などの測定も行う 1).ちなみに筆者は語呂合わせとして ABCDP で覚えていた。

 

膵炎の診断に重要な膵酵素上昇について DKA の 15~24%で非特異的なアミラーゼ/リパーゼ上

昇がみられた報告がある 3).DKA 自体で腹痛があり,また膵炎があったとしても意識障害で症状を訴えられないこともあるだろう.

病歴や CT 画像,膵酵素の上昇の程度などから膵炎の有無を判断

しよう.また嘔吐などで唾液腺由来のアミラーゼが上昇することもあり,

きちんと膵アミラーゼを

測定するべきである.

 

DKA は急性経過で発症する口渇,多飲多尿,体重減少,腹痛,悪心・嘔吐,倦怠感,意識低下など非特異的な症状を起こす。

DKAで腹痛がみられるのは代謝性アシドーシスや電解質異常による胃の排出遅延と腸蠕動低下によると考えられている。またケトアシドーシスの補正のために過呼吸や Kussmau 呼吸(深く速い規則的な呼吸)をきたす.

過呼吸はDKA を疑え。息を嗅ぐとケトンの影響でフルーツ臭がすることもある.

 

HHS は数日~数週間で徐々に進行する。

脱水症状がメインで意識障害や神経巣症状,痙攣を起こすこともある.意識障害により高血糖の症状はマスクされやすい.

 

どちらも誘因となった疾患により症状は変わる.また著明な脱水が関与するため,血管内脱水(頸静脈の臥位での虚脱、IVC、起立性低血圧)や細胞内脱水(腋窩乾燥、口腔内乾燥、皮膚ツルゴール低下)はチェックし、治療後もこまめに診察しよう。

 

 

・SGLT2 阻害薬投与下では EuDKAに注意する.

血糖の上昇に乏しいDKA(EuDKA:euglycemic diabetic ketoacidosis)が存在する.EuDKAではインスリンの欠乏は軽度であり,そのため糖利用の障害が乏しく血糖は上昇しにくい一方で,絶食状態での肝臓での糖産生低下が主にかかわる。リスクファクターには妊娠,カロリー摂取量低下,アルコール多飲,入院前のインスリン使用,膵炎,肝硬変などがいわれているが,特に最近ではSGLT2阻害薬使用患者では注意が必要である。

 

SGLT2 阻害薬は近位尿細管の sodium‒glucose co‒transporter を阻害し尿中に糖排泄を行うが,この糖排泄促進がインスリン分泌を低下させ,グルカゴン分泌を促進する.インスリン分泌低下の結果として遊離脂肪酸の産生が亢進しそれは肝臓でβ酸化によりケトン体が産生される.またインスリン分泌低下やグルカゴン分泌促進はアセチル CoA カルボキシラーゼ(ACC:acetyl‒CoA carboxylase)活性を低下させ,カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠ(CPT‒Ⅰ:carnitine palmitoyltrans-ferase‒Ⅰ)を活性化し,脂肪酸がミトコンドリアへ輸送されβ酸化が促進される。れらの機序により SGLT2 阻害薬は EuDKA を起こしうる .1型糖尿病での使用や内因性インスリン分泌不全、インスリン中止/減量、極端な糖質制限がリスクになる。そのためシックデイや周術期は休薬すべきである.手術が予定されている場合は術前 3 日前から休薬し,食事が十分にとれるようになってから再開する。SGLT-2阻害薬関連の DKA の 71%が EuDKA だった 。稀な合併症ではあるが,SGLT2 阻害薬使用患者では,悪心・嘔吐,腹痛,意識障害,全身倦怠感など(多飲多尿は目立たない)を認めた際には EuDKA を念頭に置き,血糖上昇がなくても血液ガスや血中/尿中ケトン体の評価が必要である.また EuDKA の治療では DKA のものとほぼ同じであるが,インスリンを開始する際に血糖を下げないためにブドウ糖を含む輸液を併用する必要があるのが注意点である。

 

治療は誘因に対する治療を除けば大きく分けて① 補液,② カリウム補正,③ インスリン,④ その他,に分かれる.水分や電解質の欠乏量は表 27-4 の通りであり,補正する際に参考にしてほしい.

 

もちろん誘因となった疾患(感染など)があれば治療を行うが,補液やインスリン治療が遅れてはならない。また改善するまでは血糖は 1 時間おき,電解質(Na,K,P),pH,AG,腎機能などのチェックのため採血は 2~4 時間おきに行う.電解質のチェックについては動脈ガスと生化学による測定値は20%の症例で 0.5mEq/L 乖離が認められたという報告もあるため生化学検査が望まれるが、一方で検査結果が出るまでに時間がかかるというデメリットもある。筆者は生化学による測定値を用いることにしている.pH と HCO3

-については静脈ガスと動脈ガスで差やその 95%信頼区間は狭く、AG を計算するときのカリウムの問題についてはは残るもののこちらは静脈ガスで代用できると筆者は考えている。

 

DKA の寛解は血糖 200 mg/dL 以下に加えて

HCO3-≧15 mEq/L、静脈 pH 7.3、AG≦12 の2つ以上を満たす場合と定義される。

HHS の寛解は浸透圧と意識の正常化である。

ただ大量輸液やケトン体が尿中に排泄されることで Na や K も排泄される影響で、DKA 回復期には AG 非開大性高クロール性代謝性アシドーシスになりやすい。よってpH や HCO3-よりも AG の正常化がケトン体消失の指標になることは覚えておこう.ちなみに尿ケトン体は消失が遅れるため寛解の判定には使えない。

 

補液)

DKA も HHS でも7~10 L の重度脱水を伴うことが多いため(表 27-4),大量輸液による肺水腫など呼吸状態に気をつけながら十分な補液を行うことが重要である.特に腎不全、心不全が背景にある患者では over volume に注意しよう。

 

図 27-3 での血清 Na 値は補正するのを忘れない.補正 Na は実測 Na+{(血糖値-100)÷100}×1.65 である.

 

図 27-3 では血清 Na に応じて 0.45%食塩水に切り替えることを検討しているが根拠は乏しく 4),

筆者はそのまま 0.9%食塩水もしくは乳酸リンゲル液を使い続けることが多い.

血糖補正後もケトーシス改善のため,後述するようにインスリンは減量のうえ継続する.そのため低血糖予防に糖質も補充する.図 27-3 では 0.45%食塩水にブドウ糖液を混ぜて 5%ブドウ糖にしたものと書いてあるが,筆者は欧米人との体格差や簡便さなどより維持液(ブドウ糖 7.5%入り:ソルデムⓇ3AG など)を 100 mL/時ほど入れながら適宜側管より外液を補充している.

生理食塩水を大量に補液した場合,高 Cl 性代謝性アシドーシスをきたす場合がある.乳酸リンゲル液と生理食塩水どちらでも変わらないから乳酸リンゲル液でよい。

 

カリウム補正)

DKA や HHS では表 27-4 に示す通り,電解質についても欠乏がみられる.特にカリウムについては採血上正常~高値であっても,(DKA で特に)細胞内でのカリウム欠乏,インスリン治療による細胞内へのカリウム取り込み、尿中カリウム排泄亢進により補充を必要とする(図 27-4).高度腎機能障害や乏尿があれば尿中排泄量が減ると考えられるので補充量は調整が必要である.

 

インスリン)

経静脈的に速攻型インスリン:ヒューマリン R50 単位を生理食塩水 49.5 mL に混点し 1 単位/mL で。1 時間当たり 50~70 mg/dL の血糖降下を目指す。より急速な血糖降下(100 mg/dL/時以上など)の場合、低血糖や脳浮腫のリスクになるため減量する。カリウムが 3.3mEq/L を切っている場合は補液とカリウム補充を優先し、インスリン治療は始めない。

補液のみでも血糖は下がっていく。インスリン拮抗ホルモンやインスリン抵抗性を減少させるなどの作用から時間当たり約 25~50 mg/dL 下がるといわれている。脱水の著明な HHS では特に下がりやすい。ケトーシスがなければまず補液のみで血糖を下げて、それで不十分な場合にインスリンを導入してもよい。

 

軽症~中等度の DKA(以下のすべてを満たす:意識清明、悪心・嘔吐なく飲水が可能、pH 7.0、HCO3-≧10)ではインスリン皮下注は一般病床での管理が必要な場合に例外的に選択肢になる.0.3 単位/kg をまず打ち、その後 0.1~0.2 単位/kg を 2 時間おきに投与するというプロトコールである。

 

DKA や HHS の寛解後にはインスリンの静注を皮下注射に変更していく。rebound hyperglycemiaを予防するためにも基礎インスリン、超速効型インスリンを導入していく。インスリン皮下注への変更をする際は、静注インスリンは初回皮下注射の2 時間後に中止する。元々インスリンを打っていた患者ではその量を再開し、初発の場合はインスリンの量は 0.5~0.7 単位/kg を総量とし,半分を基礎インスリン,もう半分を 3 等分して食前に打つ 4).高齢者や腎不全がある患者では 0.3 単位/ kg ほどに減らしてもよい.

 

アシドーシスの補正)

アシドーシスの補正については pH>6.9 の場合は重炭酸ナトリウムによる補正は推奨されない。一過性にアシドーシスは改善されるが血糖コントロールは改善せず脳浮腫やケトーシスの悪化、カリウム低下などの害がありうるためである。pH<6.9 の場合はデータがないが,ADA(米国糖尿病学会)のステートメントでは 100 mmol の重炭酸ナトリウムを 400 mL の減菌水に溶解し KCl を20 mEq 溶かして 2 時間で投与することが勧められている 。

 

リン)

DKAではインスリン欠乏の影響でリンは細胞内から細胞外へ移動している.そのため体全体ではリンは約 3 mg/dL/kg 欠乏しているが,採血の値上は正常~高値になっていることも多い.そのため治療開始後のリンの値は低下することが多い。しかしリンの安易な補充は低カルシウム血症や PTH 分泌抑制から低マグネシウム血症のリスクとなる。そのため ADA のステートメントでは心機能障害や貧血、呼吸機能障害、またはリン 1.0mg/dL の場合は、注意深くリンを補充することが考慮されるかもれないとされている。この場合は 20~30 mEq/L のリンを輸液に加える.

 

DKA や HHS を引き起こす誘因は?

いつも感染と心血管疾患は念頭において検索を行う。またインスリンを中止していないか内服薬のチェックも行う。インスリンや内服薬については患者教育につながり再発予防にもなる.

 

DKA と HHS の初期治療に違いはあるのか?

両者はオーバーラップすることも多く明確に区別することが難しい場合がある.筆者はケ

トーシスやアシドーシスが顕著でなければまずは補液を優先する。もしくはインスリンは少量より開始する場合が多い。特に高齢者や腎機能障害をもつ患者では少量からの開始が安全である。そして何より治療後経過を慎重にフォローし、こまめな調整が重要である。