心原性脳塞栓症は,心房細動(AF)などの心疾患により心臓内に血栓が形成され,その一部が血流に乗り,脳の動脈に詰まって起こる脳梗塞。

心原性脳塞栓症は,塞栓子により突如血管が閉塞されるため,突発的に発症し,短時間で症状が完成する.側副血行路の発達が悪いため広範囲な梗塞巣となり,重篤な症状を呈する.脳梗塞の3つのタイプの中で最も予後不良である.

心原性脳塞栓症では,側副血行路が発達する間もなく急激に発症するため,比較的境界明瞭な楔形の大きい梗塞を認めることが多い.多発性のこともある.

MRAでは動脈硬化はみられないか,あっても軽度で,血行の途絶・塞栓子がみられることがある(再開通すればこれらの所見は消失する)。心原性脳塞栓症の診断には,経胸壁心エコー,経食道心エコー,心電図,ホルター心電図などによる心疾患・心内血栓の検出が必要である.

心原性脳塞栓症の原因となる塞栓子は左心系,特に左房内に形成されることが多い.心房,心室内の血栓や疣腫発見するためには心エコー検査を行う.特に左心耳に形成された血栓は通常の経胸壁心エコーでは観察できないため,経食道心エコーを使用して観察する.



心原性脳塞栓症では,突然の血管閉塞に対して線溶系の亢進などが起こり,閉塞した血管が再開通することがしばしばみられる.

再開通がごく早期(発症後数時間以内,脳組織が不可逆的な梗塞に陥る前)に起こると,症状が劇的に改善することがある.

しかし,すでに梗塞に陥って脆弱化した血管に,再開通によって血液が流入すると,血液の漏出や出血が起こり,ときに症状の増悪を招く(出血性梗塞).
梗塞により虚血性変化を起こした血管に,再び血液が流入すると,梗塞部の組織に出血が生じることがある.これを出血性梗塞という.発症後数日以内に出現しやすい.出血性梗塞は,どのタイプの脳梗塞でも起こりうるが,特に心原性脳塞栓症で多く認められる.また,血栓溶解療法の合併症としても重要である。神経症状の変化がみられないこともあるが,血腫を形成し脳浮腫や脳ヘルニアの増悪を起こすと,症状がさらに悪化することがあるため,注意が必要である.
頭部単純CTでは梗塞巣の低吸収域の中に,出血が高吸収域または等吸収域として混在してみられる.造影CTでは造影効果が認められる.
頭部MRIでは脳梗塞の所見に加えて,出血がT1強調像で高信号として認められる.出血の所見が主体な場合,脳内出血との鑑別が問題になることがある.