寝る前に言った通り麻友が起こしてくれたのだが、目覚めた瞬間あの姿で覗き込まれた真一は
『わっぁ!!お、おはよう、麻友』
『ど、どうされました? 真一さま?』
心配そうなに(そう感じた)覗き込んできた麻友を見て
『何でもないよ』
と答えた。

真一は朝食を済ませ麻友と一緒に会社を訪ねる準備をしている途中である事に気づいた。
『麻友、今の外見のままで外に出るのは色々マズイと思うから男物で悪いけど、
 この学校の制服を着て、帽子を目深に被ってくれないか?』
『私の事でしたら心配いりません。私にはステルス機能がありますから』
と言うと麻友の姿が見えなくなった。
『真一さま私の姿見えないでしょ?』
と声だけが聞こえてきた。
真一は驚いて
『ま、麻友、消えられるのか?』
『正確には『消える』ではなく『認識出来なくなる』が正解です。
 だから、カメラなどには私は映ります。』
と言ったが真一にはイマイチ判らなかった。
『認識出来なくなる?』
『はい。光学迷彩や透明人間の様に物体が透けて居るとかではなく
 実際には真一さまの目の前に居るのですが、真一さまは認識出来ないのです。
 原理は簡単で、網膜で捉えた情報が脳に行く前に
 私から出している特殊な電磁波でジャミングしているのです。』

麻友が説明してくれたがその説明では真一は一つ引っかかる事があった。
『網膜の情報をジャミングしたら麻友以外の物も見えなくなるのでは無いか?』
『私が出しているジャミングは物が見えなくなる類ではなく、
 特定の物の情報だけを打ち消しあって消して居るのです。
 真一さまはヘッドホンやイヤフォンなどに採用されている
 『ノイズキャンセリング』機能ってご存知ですか? 
 あれは周りの音の逆波形音を瞬時に作り出して打ち消しあって居るのですが、
 それを応用した物です。』
説明が終わると同時に麻友は真一の目の前に現れた。

『なる程・・・・。何となく理解出来たよ。』
『それにしても麻友は凄いな・・・・。
 直している時に普通のARじゃあ無いとは思っていたけど、そんな凄い事が出来るのか・・・・。』
感心していると
『真一さまは通常のARには付いていないと言うか、
 まだ見た事のない機能が付いている私を見ても怖くないのですか?』
『別に怖くないよ。恐いと言うより好奇心の方が優っているよ。
 さっきも言ったけど直している時から部品などを見て麻友は普通のARとは一線を画す事は
 判っていたから今さら驚かないよ』
『真一さまは不思議な方ですね。私がお使えする人が真さまで本当に良かった。
 ―――――――これで何も怖くなくなりました――――――――。』
最後の言葉の意味が分からなかった真一だが、すぐに分かる事になる。

会社に着くと真一が
『麻友これからどうするんだ?』
とステルスモードの麻友に話しかけた。
『真一さまは、ここで解体された私を連れて帰ったんですよね?』
『正確には裏の廃品置き場からだけどね』
『では、その廃品置き場に行きましょう』
真一は会社の裏にある廃品置き場に行くと、
いつも居る作業着姿のおじさんを見た麻友は驚きを隠せなかった。
『え・・・・。善太郎さま?』
『善太郎さん? あのおじさん善太郎って名前なの? 
 そう言えばこの会社の会長さんの名前も善太郎じゃあ無かったか?』
『はいそうです。あの方が【楠木グループ会長】の【楠木善太郎】さまです。』
真一は驚きのあまり
『え~~~~~~~!』
その声に気づいた善太郎が
『おぅ、真一君では無いか。今日は早いな、学校は休みか?』
とタオルで顔の汗を拭きながら近づいて来た。
『お、おはようございます。』
『学校自体は休みでは無いのですが、ちょっとおじ・・・会長さんに頼み事が、
 ありましてズル休みをして来ました。』
善太郎は驚きの表情をしながら
『わしは会長ではないぞ』
『麻友から今聞きました。』
『麻友? 麻友って誰なのじゃ?』
『それは・・・・。あの・・・・・。』
『私から説明します。』
麻友が言葉を発した瞬間、善太郎は驚きのあまり
『今の声は・・・・・。そんなハズがない・・・・。』
独り言を言い始めた。

『真一くん一昨日、廃品置き場から解体されたARを持って帰ったじゃろ、それをどうした』
真一に詰め寄る様に善太郎が聞いてきた。
その問に答えたのは麻友だった。
『真一さまに直して頂きました。』
答えた瞬間、麻友はステルスモードを解除した。
すると善太郎の目の前に解体される以前の姿の麻友が現れた。
善太郎は驚きのあまり絶句した。
『・・・・・・・・』
すぐに正気に戻った善太郎は
『あのARを完全に直すとは・・・・。真一くんの技術がここまでのモノとは・・・・。』
『真一くん、ここではなんだから詳しい話は私の部屋でしよう』
真一と麻友は善太郎の後について行くと、着いたのはやっぱり会長室だった。
会長室に着くと善太郎は
『真一くん、そこのソファーにでも座って楽にしていてイイぞ。それと飲み物は何がイイかの?』
『こ、コーヒーを・・・・。』
引きつった様な言い方で答えると善太郎は微笑みながら
『何も緊張しなくても良いんだよ。今から取り調べでも始めようと言う訳ではないんだから。』
善太郎は机のインターフォンで話し始めた。
真一は麻友を見て
『これから、どうなるんだ? 俺ちょっと心配になって来た・・・・。』
『真一さまは何も心配する事ありませんよ。いざと言う時は私が守りますよ。』
真一は情けないけど、今の状況では自分では何も出来ない事に対する苛立ちやらで
複雑な心境であった。
善太郎は真一たちの前のソファーに座ると
『それで詳しい事を聞かせて欲しいのだけど・・・・。』
真一はここ2日間の事を手短に善太郎に話している最中麻友は一言も喋らなかった。
真一の説明を聞いた善太郎は
『では、要約するとARのボディーを持って帰ったその日に多方は組み立て
 翌日にはARを起動させたと言う事だね』
『はい』

善太郎は暫くの沈黙のあと
『でも、あの暗号システムは君が作ったモノだったとは・・・・。
 その頃は、真一君は小学生だろ?』
『そうですね。あれを作ったのは遊び半分で作ったので楽しかったけどネットで発表するのは
 怖かったから偽名で出したのですが、やっぱり、色々言われて当時はかなりへこみました。』
『あれを普通の人に理解しろと言うのは無理があるだろう。
 ワシもあの暗号システムを見た時は身震いした 
 それで、ARの暗号システムに使わせて貰う為に連絡を取ろうとしたのだがどうしても、
 取れなくて勝手に使わせて貰ったのじゃよ・・・・。』
と頭を掻きながら答えた。

続けて善太郎は
『それにしても、君の才能はある程度は解っていたつもりだけど、
 ここまで凄いとは・・・・。』
次は麻友の方を見ながら
『もう一つ驚いのは君だよ。ARV-1』
善太郎が麻友の以前付けられていた名前を呼ぶとすかさず
『私はARV-1ではありません。私の名前は【麻友】です。』
『そうか・・・・。じゃあ麻友』
『私の事を呼び捨てで呼んで良いのは制作者及び管理者の真一さまだけです。』
真一は善太郎に対する態度を見て
あれ? 麻友は会長さんの事恨んで居ないと言ってなかったか? 
なんであの様な喧嘩腰の言い方なんだ?
などと思っていると麻友と善太郎との会話は進んでいて
『今は麻友くんで良いのかな? 
 君は以前の記憶をバックアップしたと聞いたのだが
 どうして製作者が真一の名前になっているんだ?』
『どうして? と言われましても事実を申し上げて居るだけです』
それを聞いた善太郎は真一に
『真一くん、麻友くんのデーターを書き換えたのかね?』
『いいえ書き換えていません。俺はクラッキングしただけです。
 後は麻友が自己修復したのだと・・・・。』
『別にワシが自分で製作したと言える様な行いはしていないが、
 明らかに製作者のデーターが違ってきているぞ』
『それは・・・・。』

真一が返答に困っていると麻友が
『真一さま、それ以上は言わなくて良いですよ。』
そのやり取りを見ていた善太郎は
『何やらありそうだが、聞かないでおくべきかの』
と言って一歩引いた。

そして善太郎は
『真一くんワシは回りくどい言い方は嫌いだから単刀直入に言おう、
 麻友くんを返して貰いたい。その代わりに、ウチの会社で1ヶ月後に発表する
 ARの最新機種の最高ランクのARと交換と言う形でどうだろうか?』
『魅力的な話ですね』
『そうじゃろ、良い条件だろう。学校に連れて行けば自慢出来るぞ』
『魅力的な話しですが、お断りします。貧乏人の俺では一生働いても買えない様な
 ARでしょうが、その最高級のARより俺は麻友が良いです』
『そんなに麻友くんが良いなら、
 麻友くんの自我データーをその新しいARに移せば良いのではないか?』
『会長さん貴方はまだそんな事を言っているのですか? 
 俺はこれ以上麻友に辛い思いをさせてくありません。
 最初は自分の体が解体されていくのを見せ、
 次はその体ごと変える姿を見せろと言うのですか? 貴方はAR気持ちを考えてない。
 ARに携わる資格はないと思います』
真一は怒りを込めて善太郎に言った。
それを聞いた善太郎は
『何も分かっていないのは真一くん君の方だよ』
『そこのARは・・・・。』