クラスに入れば、多くの生徒がAR自慢。或いはARの専用端末をイジっている・・・。
残りは寝ているか友達同士で話をしている生徒がチラホラ居る見慣れた光景である。
そして、真一が来た事に気づくと始まるのが聞こえる様に話す陰口大会。
真一も心では苛立ちは有ったが、直接何か危害を加えられる訳でも無いし
言い返したらそれ以上の事をされるのが面倒なので無視を決め込んでいた。

そんな真一の姿を自分の席から見ているクラスメイトが居た。
『遥香』『友美』『将司』『静哉』『祐二』の5人である。

遥香はARの端末を操作しながらチラチラと真一の様子を伺う様に、
友美は真一の方を見ながらARと話をしている。
そして将司は苛立った様子で睨み付ける様に
静哉は半笑いで、裕二はノートPCを操作しながら時折顔を上げこちらを見ていた。
5人それぞれが真一に気に掛けている様だったが真一自身は気づいて居ないなかった。

当の真一は陰口など、どうでもよくて、昨日組み立てたARの事で頭がいっぱいで
気づけば放課後だった。

一刻も早く家に帰りたくて帰り支度をしていると
朝と同じ様に陰口が聞こえてきたが無視して帰ろうとすると
連中の一人が教室の入口を塞ぎながら
『こんなに早く帰って何するんだ?』
『そんな事言ったら可哀想じゃないか。昔から言うだろ『貧乏暇なし』って』
と笑いながら真一を挟んで話始めた。
真一は早く帰りたくて
『そこ退いてくれないか?』
と言ったが
入口の前で塞いでいるクラスメイトが
『ビート(ARの名前)コイツを抑えろ』
とARに命令した。
ARは基本的に人間には危害を加えないが
それは暴力を加えないと言うだけで主人の命令なら人間を羽交い締めにするくらいの
命令は実行する。

ARに羽交い締めにされ身動きが取れない真一に向かって
『ARはイイだろ? 何でも言う事聞くんだぜ。お前も買えよ。あー。真一は欲しくても買えないのか』
『そう言えば、ラジコンで動く子供用のARが売っていたぞ。ゴメン、真一にはそれを買う金も無いのか』
と言うと陰口を叩いている連中が一斉に笑いだした。

真一は心の中で
『今は何とでも言ってろ、あのARが完成した時のお前らの顔を想像すると、こっちが笑えてくるわ』
と思っていた。

そんな事を思っている最中でも連中のイヤミが続いていた
その時、友美がこちらに近づいてきた。
『貴方たちはそんなに良いARをお持ちなのですか?
 でしたら、私のディート(ARの名前)と勝負してくれませんか?』
そう言うと友美の横に居たディートの目がキラリと光った様な気がした。
それを見たARは真一を離し、イヤミを言っていた連中の後ろに隠れた。

連中は連中で口々に
『滅相もない。自分のARが友美さんのディートに敵うはずもありませんよ・・・・。』
『自分のARは戦闘用では無いので戦っても勝てませんよ・・・・。』
などと今までの威勢もどこに行ったのかこちらもAR同様逃げ腰である。

そんな状況を見ながら真一は
『そんじょそこらのARが社長令嬢のボディーガードARに勝てるはず無いわな・・・・。』
と思いながら助けてくれた友美に感謝をしていた。

だが友美の怒りは収まらないらしく
『真一さんにARを購入しろと言っていましたが、あなた方のARは自分が働いたお金で
 購入されたモノですか? 親のお金でじゃ無いのですか?
 それを如何にも自分が買った様な言い方して・。
 まぁ私も親に購入して頂いたので偉そうな事は言えませんが・・・・。』
『家庭にはそれぞれ事情があるのだから、その事に対して陰口やイジメをするのは
 自分の浅ましさを露見させている事になぜ気づかないのですか』
と連中をたしなめた。
それを聞いた連中は居た堪れなくなり、いそいそと帰っていた。

友美は連中が帰るのを見ると自分の席に戻り勉強を再開した。
真一も一刻も早く帰りたかったが、助けてくれた礼を言いたくて
友美の席に近づき通り過ぎる時に小声で
『ありがとう。助かった。』
と一言だけ言って返事も聞かずに教室を後にした。
友美は真一の声に気づいて顔を上げたがもう声が届く距離でもないし
真一の意図も分かったので追いかけることもせず、微笑んだだけで勉強を再開した。

真一は自分の部屋に入った瞬間ある事に気づく、それはARの首の角度が
朝見た時と明らかに違う。
家には自分しか居ないのだから誰かが触る事は絶対ないし、
ましてやこんな家に空き巣が入ったとは考え難い。
そうなるとAR自ら動いたとしか考えられない。

急いでARに近づいて見たが一見変わった様子は無かった。
次にPCを操作してみたら昨日は認識すらされなかったのが今日はちゃんと認識しだ。

真一は着替えるのを忘れてPCのキーボードを操作した。
すると駆動系を司っているプログラムには異常は見受けられなかったが
どうしてもプロテクトが掛けられており見られない部分が出てきた。

直感でここにアクセス出来ればこのARは動くのではないかと思い、
プロテクトの解除を試みる事にした。

まず問題なのがプロテクトの種類である。
それが判らないと、どうにもならないが真一には心当たりが有ったのだ。

それはARの頭部の部分を見た時に気づいていたのだが
AIを司るチップの配列が既製品とは違っており、人間の脳と同じメカニズムで出来ている上
AR特有の同時高速思考能力を併せ持つ究極のAIシステムなのだ。

そしてこの位の性能が無いとダメな暗号システムを一つだけ知っていたのだ。
それは・・・・。

自分自身が開発してネットに公開したら、
理解して貰えず散々馬鹿にされた暗号システムなのだ。

真一はダメ元で試しにアタックしてみたら驚く事に効果が有ったが完全には解けなかった。
当然、自分が作ったモノだからと言って簡単に解けては暗号の意味を成さないので
当たり前なのだが、諦める事なく即座にクラックソフトを作りアタックを開始した。

クラック作業は自動的にしてくれても、時間だけはどうにも成らないので
暫くはPCに任せてベッドに転がって今日の事を思い返していた。
今まで殆ど口すら利いた事の無い友美がどうして今日に限って助けてくれたのか?
いくら考えても答えは出なかった。
そんな事を考えながらPCの方に目をやると画面に成功の文字が映し出されていた。


真一は急いでPCの前に座りプロテクトされていた中身を見てみるとなんとカラだった。
『なぜデーターが無いのにプロテクトが掛かっていたのだ?』
そんな事を思いながらカラのデーター領域を見ていると明らかに可笑しな点に気づいた。
一見何も無い様に見えるが選択出来る項目がある。
それは反転文字になっておりマウスで反転すると文字が浮かび上がってきた。
そこには【Recollections】と書かれていた。