題名:Rahasia Otak Manusia Jawa(『ジャワ人の脳の秘密』)
著者:dr. Armin Yurisaldi Saleh
出版社:Pinus Book Publisher (2010年)


$インドネシアを読む-Otak Orang Jawa

なんだかとりとめのない本です。

脳神経学者の手になるもので、要するに、ジャワの伝統文化は調和と礼節を重んじる高度に洗練されたもので、
それを尊重し、先人の教えに従って生きていれば、かなりの確率で卒中を防ぐことができる、あるいはジャワ伝統
文化を取り入れることは卒中後のリハビリにおおいに役立つ、ということなんですが。

わかるんですけど、なにかこうかゆいところに手が届かないというか…。

まずひとつは構成のまずさでしょう。なんだか非常にテキトーな感じがしてしまう。ただ思いつくままに書きました、という感じで。雑誌に連載したものをそのまままとめた、というのならまだわかるんですが、これは書き下ろしのはずなのに。これはもう編集者の腕の問題じゃないかと思います。

もうひとつは、読んでいてもわくわくしないということ。こういったポピュラーサイエンスものというか啓蒙書というかは、素人が読んで「へえー、そうだったのか!」と知的興奮にかられるようなものであってほしいのです。

たしかに素人にもわかるように噛み砕いて書いてあるのはわかるのですが、なにかこうとりとめがなく、説得力に
欠け、読んでいてもつまらない。この本のタイトルを見ると、素人としては、もっと鮮やかな切り口を期待してしまいます。

さらにジャワ人とジャワ文化に対する矜持がいささか鼻につきすぎる、ということ。
これは、単に私がジャワ人ではないからであって、ジャワ人が読めば、「そうそう!」と膝を打ちたくなるのかもしれませんが。

もちろんジャワの伝統文化がすぐれたものであるのはたしかです。でも、だからといって他民族の文化を引き合いに出してクソミソにけなすのはどうかと思うんですけど…。

たとえば「アフリカの奥地の原始的民族」は「無感情」で、「常に声高に激しい口調で話すが、これは右脳の関与する(神経)活動が刺激されていないということで、それは彼らの右脳が創作においても創造的でないことからもわかる。アフリカの諸部族の家を見ても、あまりにも簡素で彫刻もなく、あったとしても非常に単純で複雑さに欠け、料理にも多様さがなく、その文明の歴史を通じて、誇れるような偉業もない」(P. 145)

さらに「ジャワの伝統文化が創造力のいちじるしく乏しい民族に『盗まれる』のは非常に悲しむべきことだ」(P. 143) 
マレーシア人、怒りますよ…。

こういう適切とはいえない部分ばかりをあげつらうのはフェアじゃないとは思いますが、もうひとつだけ。

ジャワ人の好む色は緑と黄で、緑は落ち着きと平和を感じさせる色であり、それはジャワ人の騒動やましてや破壊を喜ばない思考様式を象徴している、というくだりで、それがなぜテロリストを生み出したりしてしまうのか、と続きます。そして「ジャワ人は、ジャワの人間特有の仁愛を重んじる行動様式の特徴を生み出す脳の構造が、本来節操のない文化を受け入れるのに適していないことに気づくべきである」(P. 49)

つまり、人をテロに走らせるような望ましくない行動あるいは思考様式は、よそから来たものだということでしょうか? 
そうだとすると、このあたりの理屈には、著者の意図するところとは別の意味で、なかなかジャワ人らしさが出ているといえなくもありません。