題 名:The Java Man
著 者:Jamie James
出版社:Metafor Publishing, Indonesia 2004年


$インドネシアを読む-javaman


近頃インドネシア本を読むのをちょっとサボッているので、以前某所で書いたネタを。


バリ在住のアメリカ人作家の作品です。

イギリスのマイナーな文学コミュニティに特別研究員としてジャワからやってきた詩人が一騒動巻き起こす、
という話。存続の危機にある文学コミュニティとそこに集う人々、所長を務める老嬢ティルディの心の揺れ等、
モチーフはさまざまあれど、著者が一番書きたかったのは、まさに題名の示すとおり“ジャワ人ってこんなやつ”
ということなのではないかと思われてなりません。

ジャワの詩人Noorは、到着予定日とまったく別の日の、しかも早朝に、なんの予告もなしに、その文学コミュニティの財団事務所に現れます。

この登場の仕方からして、まさにジャワ人。

Noorは、前もって財団から受け取っていたビジネス・クラスの航空券を売ってエコノミー航空券に買い替え、ロンドンのホテルの宿泊券も地下鉄駅で出会った人に売り払って、友だちの友だちの家に泊めてもらい、電車の一等乗車券も二等に買い替え、財団のスタッフが送っておいた日程表をまったく無視してやって来たのでした。

後になってわかるのですが、Noorが語った波乱にとんだ生い立ちはほとんどが作り話で、独身だと言っていたのに、実は妻も子どももいる身だったのです。さらに、そもそも特別研究員として招聘されるきっかけとなった一連の詩も、Noorの創作ではなかったことが発覚してしまいます。


それでいて、つまはじき者となって追い出されるわけではなく、迷惑をかけたはずの人々の間に、なぜか依然として憎めない存在として留まり、問題の詩の本来の作者はNoorの師で、若くしてジャワで病没した英国人だったのですが、その母親とも結局和解して、おまけにすっかり気に入られ、何日もその老婦人の家に泊まり込んできたりするのです。

もちろん、ジャワ人は嘘つきだ、というわけではありませんが、自分の言ったことや人に言われたことをしなかったり、全然それと違う行動をとったりすることに対する、うしろめたさの欠如には目を見張るものがある、と感じた経験がある方も少なくはないのではないでしょうか。 

そういうことに対して、あまりにもあっけらかんとしていて、おまけにちゃっかり取るものは取る(ティルディは六十年
近くも保ってきた処女をNoorのために捨てるのですから)、それなのに、なぜか愛すべき人物となりおおせている。
これは、もしかするとジャワ人にしかできない芸当かもしれません。

もちろんかなり類型化されてはいますが、少なくとも外国人から見たジャワ人像を描き出すことに、この作品は成功していると言っていいでしょう。

ついでに言っておくと、私の夫もジャワ人ですが、正直であることにかけては折り紙つきです。それでもどこか
このNoorと通底するものを感じてしまうのは、私の偏見のなせるわざでしょうか。ジャワ人、恐るべし。



余談ですが…。

10月5日、インドネシアのユドヨノ大統領オランダ訪問を急遽延期しました。出発すべく飛行機に乗りかけていたというのに。

もちろんこれは政治的理由による政治的判断に基づく政治的決断なのですが、
「ジャワ人のドタキャン癖がまた出たか」
という思いがふと頭をよぎってしまったのでした。