題名:Hanyut (1) ~ (4)
著者:辰巳ヨシヒロ Yoko Takabe, Yoko Nomura訳
出版社:Penerbit Nalar
発行年:2010年6月
(画像は出版社 Penerbit Nalar のホームページから拝借しました。)
日本での単行本発行に先だって英語版、スペイン語版の出版が決まったという海外での評価も高い作品、
辰巳ヨシヒロ著『劇画漂流』のインドネシア語版です。
辰巳氏創案の用語では「劇画」、インドネシア語版の発行元Nalar出版では、アメリカのウィル・アイズナーが確立した形式「グラフィック・ノヴェル」と同ジャンルの作品として出版され、インドネシアの書店でもコミック売り場ではなく
「ノヴェル」売り場に並んでいます。
Nalar出版はこの『劇画漂流』やアイズナーの作品の他、インドネシアのコミック作家Benny & Miceの作品など、
大人向け漫画を意欲的に出版しているようです。
扉を開くと、まず漫画の読み方の説明があります。右から左のコマへ、それから右下へ…という具合に。
インドネシア語の本は英語のものと同じく左綴じですが、日本の漫画の翻訳物は、今ではたいてい右綴じで、コマ運びも原書のままです。コミックを読みなれている子どもや若者にはもう当たり前のものとなっているのでしょうが、
対象読者が主に大人であることに配慮しての読み方の説明でしょう。
そういえば、一般の日本コミックのインドネシア語版も、数年前までは左綴じに印刷し直されていたものです。
つまり、絵を反転させて印刷するので、左右が逆になるんですね。
擬音語などの書き文字がときどき翻訳されずにそのまま残って、日本語のものが鏡文字になって印刷されていたりしました。
この “Hanyut” では、終戦の日から1960年の安保闘争まで、少年時代から漫画、あるいは劇画にこだわり続けた
主人公ヒロシの半生が描かれます。
漫画だけでなく、映画や本や社会風俗など、戦後から高度経済成長期にかけての日本の文化史を垣間見ることができます。「太陽族」や「歌声喫茶」などなど、話には聞いていても実際には知らなかったことがぐっと身近に思えてきます。
関西出身の筆者としては、阪急電車など大阪近辺の光景が見られるのも懐かしく嬉しいところ。
また、列車事故の頻発など、今のインドネシアと多分に重なるところもあり…。
インドネシアで生まれ育った高校生の息子にとっても、これまで知らなかった日本についての話は興味深いようで、幾度も読み返していました。日本の戦後を学ぶ格好の教材といえるでしょう。
そして、他人の目にはどうでもいいように見えることでも、それにこだわり続ければ、おおいなるエネルギーを生み出すものだ、ということも教えてくれます。
ひとつ困った点は、インドネシアの漫画はなぜか全文大文字で書かれていること。慣れればどうということもないのでしょうが、それまではちょっと読みにくくて…。小文字にしてくれた方がずっと楽なのになあと思います。
最後に、前回の「カフカ」と違って、翻訳がすばらしいです。
バイリンガル漫画読者の息子いわく、
「 “Pandora Hearts” の訳も、この人たちがやってくれたらいいのに。あの訳、へんだからさあ」
著者:辰巳ヨシヒロ Yoko Takabe, Yoko Nomura訳
出版社:Penerbit Nalar
発行年:2010年6月
(画像は出版社 Penerbit Nalar のホームページから拝借しました。)
日本での単行本発行に先だって英語版、スペイン語版の出版が決まったという海外での評価も高い作品、
辰巳ヨシヒロ著『劇画漂流』のインドネシア語版です。
辰巳氏創案の用語では「劇画」、インドネシア語版の発行元Nalar出版では、アメリカのウィル・アイズナーが確立した形式「グラフィック・ノヴェル」と同ジャンルの作品として出版され、インドネシアの書店でもコミック売り場ではなく
「ノヴェル」売り場に並んでいます。
Nalar出版はこの『劇画漂流』やアイズナーの作品の他、インドネシアのコミック作家Benny & Miceの作品など、
大人向け漫画を意欲的に出版しているようです。
扉を開くと、まず漫画の読み方の説明があります。右から左のコマへ、それから右下へ…という具合に。
インドネシア語の本は英語のものと同じく左綴じですが、日本の漫画の翻訳物は、今ではたいてい右綴じで、コマ運びも原書のままです。コミックを読みなれている子どもや若者にはもう当たり前のものとなっているのでしょうが、
対象読者が主に大人であることに配慮しての読み方の説明でしょう。
そういえば、一般の日本コミックのインドネシア語版も、数年前までは左綴じに印刷し直されていたものです。
つまり、絵を反転させて印刷するので、左右が逆になるんですね。
擬音語などの書き文字がときどき翻訳されずにそのまま残って、日本語のものが鏡文字になって印刷されていたりしました。
この “Hanyut” では、終戦の日から1960年の安保闘争まで、少年時代から漫画、あるいは劇画にこだわり続けた
主人公ヒロシの半生が描かれます。
漫画だけでなく、映画や本や社会風俗など、戦後から高度経済成長期にかけての日本の文化史を垣間見ることができます。「太陽族」や「歌声喫茶」などなど、話には聞いていても実際には知らなかったことがぐっと身近に思えてきます。
関西出身の筆者としては、阪急電車など大阪近辺の光景が見られるのも懐かしく嬉しいところ。
また、列車事故の頻発など、今のインドネシアと多分に重なるところもあり…。
インドネシアで生まれ育った高校生の息子にとっても、これまで知らなかった日本についての話は興味深いようで、幾度も読み返していました。日本の戦後を学ぶ格好の教材といえるでしょう。
そして、他人の目にはどうでもいいように見えることでも、それにこだわり続ければ、おおいなるエネルギーを生み出すものだ、ということも教えてくれます。
ひとつ困った点は、インドネシアの漫画はなぜか全文大文字で書かれていること。慣れればどうということもないのでしょうが、それまではちょっと読みにくくて…。小文字にしてくれた方がずっと楽なのになあと思います。
最後に、前回の「カフカ」と違って、翻訳がすばらしいです。
バイリンガル漫画読者の息子いわく、
「 “Pandora Hearts” の訳も、この人たちがやってくれたらいいのに。あの訳、へんだからさあ」