せっかくの、
穏やかな休日。
おうちでゆっくり、
ネットショッピングでもしようかな。
そんなふうに思って、
パソコンを開きました。
でも、
ここで、
最初の難関が、
待ち受けていました。
そう、
『パスワード』
です。
みなさんは、
こういうことって、ありませんか?
「あれ?」
「何だっけこれ?」
と、
画面の前で固まってしまう瞬間です。
実は、
今日の私は、
まさにそれでした。
画面には、
冷たく光る、
『ログイン』
の文字。
では、いったい、
その下に何を入力すればいいのか。
問題は、
そこなのです。
私の頭の中は、
見事に真っ白になっていました。
ここで思い出せれば、
何の問題もありません。
けれど、
人間の記憶というものは、
都合よくできていないものですよね。
すっかり、
綺麗さっぱり、
忘れてしまっているのです。
「あれは確か、
去年の秋くらいに……」
なんて、
思い出そうとしても、
無駄な抵抗です。
出てくるのは、
昔飼っていた犬の名前とか、
昨日食べたオムライスのことばかり。
お買い物サイトのパスワードには、
まったく関係のない情報ばかりが、
頭を駆け巡ります。
こういう時って、
すごく焦りませんか?
なんだか、
機械に試されているような、
そんな気持ちになってしまいます。
「あなたは本当に、
このアカウントの持ち主ですか?」
そう、
画面の向こうから、
問われているような気がするのです。
ちょっと、
大げさかもしれませんが、
本当にそんな気分でした。
ここで、
あきらめるわけにはいきません。
せっかく見つけた、
お気に入りのワンピース。
カートには入っているのに、
レジに進めない。
これは、
非常にもどかしい状態です。
そこで、
私は、
ノートを取り出しました。
『パスワードの控え』
という、
昔の自分が残した、
最後の希望です。
パラパラと、
ページをめくります。
でも、
書いてあるのは、
暗号のような数字の羅列。
しかも、
どれがどこのものか、
さっぱり分かりません。
「これは、
銀行だったかな?」
「いや、
こっちは図書館のカードかも。」
結局、
どれもしっくりきません。
自分の書いた文字なのに、
まるで他人の文字のように見えます。
こういうのって、
なんだか少し、
切ないですよね。
自分の記憶力のなさに、
ちょっとため息が出てしまいます。
でも、
ここで、
ふと思いました。
ものは考えようです。
もしかしたらこれは、
神様がくれた、
『お休み』
のサインなのかもしれません。
「今日はネットでお買い物しないで、
のんびりお茶でもしなさい。」
そんなふうに、
言ってくれているような気がするのです。
そう考えると、
パスワードを忘れたことも、
なんだか良いことのように思えてきます。
パソコンの画面を、
そっと閉じました。
部屋には、
静かな時間が戻ってきます。
お気に入りのマグカップに、
あたたかい紅茶をいれました。
カップから立ち上る、
湯気を眺めながら、
ソファに深く腰掛けます。
やっぱり、
画面ばかり見ているより、
こういう時間もいいものですね。
スマホやパソコンから離れて、
ぼーっとする。
忙しい毎日の中では、
なかなかできない贅沢です。
パスワードが思い出せなかったおかげで、
思いがけず、
穏やかなティータイムが過ごせました。
人生、
何が幸いするか分からないものです。
みなさんは、
最近、
こんなふうに頭が真っ白になったことはありますか?
もし同じようなことがあったら、
無理に思い出そうとしないで、
一度お茶を飲んでみるのもおすすめですよ。
今度こそ、
パスワードをちゃんと整理しなきゃなと思いつつ、
今日のところは、
こののんびりした雰囲気を、
もう少しだけ楽しもうと思います。