小姐に騙される日本人男(六) | 武漢の歩き方

小姐に騙される日本人男(六)

紅霞と交際を始めて8ヶ月ぐらい経った頃、僕は彼女の父親を紹介さ

れた。しかも病院で。


紅霞の父親は、もう長いこと通院しているとのことで、確かに顔も少し

やつれていた。特に最近は病気の症状が重いらしく、医者からは手術

を勧められていると言っていた。


「それなら手術すればいいじゃん」と言いたかったが、たぶんお金の問

題だろうなとも思ったので、あえて僕は何も言わなかった。


この頃の紅霞は、時折沈んだような表情を見せ、どうしたのか尋ねると

決まって「父親のことが心配だ」と言っていた。あの当時は単純に中国

の家族愛って凄いなぁ~と思っていたのだが、別にそう言うわけではな

く、既に彼女はこの頃から伏線をはっていただけだったのだ。




相変わらず北京には月に一回行き、一週間程度の滞在を繰り返して

いた。ただ、その間に中国での仕事も進み始めたため、エセ出張では

なく本当に出張となってはいたが。


また、紅霞も昼の仕事をはじめたので、北京にいても彼女と一緒にい

られる時間は夜ぐらいしかなくなっていた。もちろん毎月のお手当は

ちゃんと渡していた。



仕事が順調に進むにつれて、僕は中国語を勉強しようと思い始めた。

もちろん日本での仕事もあるので、ずっとという訳にはいかないが、と

りあえず1年間は国内の仕事は任せて、北京に留学をしようと考えて

いた。


『紅霞に僕が北京で暮らすことを話したら喜ぶだろうな』と、アホな僕

は一人でよがっていたのだが、その件を彼女に告げる前に、紅霞か

ら驚くような話をされることになる。



「アナタに謝らなければいけないの・・・・」


「ん?なにを?」


「別れよう。ゴメンね・・・・・・」



あまりにも突然だったので、ビックリするというよりも面食らってしまい

しばらく言葉が出なかった。



「な、なんでだよ?オレなんかした?」


「違う・・・・・アナタは悪くない・・・・・」


「じゃ、なんでだよ?何で急に別れるって言うの?」


「・・・・・お金がいるの・・・・・たくさんお金がいるから」


「金?いまのじゃ足りないのかよ?」


「手術しないとお父さんが死んじゃうから・・・・」



そう言うと紅霞は崩れるようにして泣き出した。まるで子供のように声を

あげて・・・・・。僕は必死で彼女にかける言葉を探したが、見つけること

ができずにただ立ちつくしていた。



しばらくすると、彼女は落ち着いたのかまたポツリポツリと喋りだした。


医者がいうには、このままだと紅霞の父親の命は1年もたないらしく

早急に手術が必要とのこと。肝心の父親はもう諦めているようだが

娘はなんとしてでも父親を助けたい・・・・・。



「・・・・・だから私はお客さんとSEXするお店で働く・・・・・嫌だけどお父

さんを助けるためなの・・・・・アナタのこと好きだけど、家族のためだ

から・・・・・ だからアナタとはもう一緒にいられない・・・・・本当にごめ

んなさい・・・・・」



父親を助けるために自分の身体を売る・・・・・ドラマでしか聞いたこと

のないような話だったが、それが自分の目の前で起こっている・・・・。

しかもその女性が自分の最愛の人だというのだから、助けようと思う

のはむしろ必然ともいえるだろう。



「手術代はいくらかかるの?」


「30万元・・・・・・」



自分の想像していた金額よりも高かったが、出せない金額ではない。

車を一台事故でつぶしたと思えば諦められる金額だ、と自分に言い

聞かせた。



「30万元ぐらいで身体売るなんていうなよな。オマエはオレの彼女

だろ?あんまなめんなよオレのこと。それぐらいの銭ならいつでも

用意できるぞ」



ぶっちゃけ全然“それぐらいの銭”ではないのだが、彼女の手前

ちょっと格好をつけてみた。・・・・言うなればアホって奴だ。



「でも・・・・・弟の大学のお金まで出してもらったのに、こんなことま

で頼めないよ。それに・・・・・お金が目的だって思われるのだけは

絶対にイヤ!・・・・・だからダメよ」


「誰も金が目当てだなんて言ってないだろ?別に誰かがそう思っ

ても、オレはそう思ってないから関係ないじゃん。気にすんなよ。

・・・・・・紅霞を助けるためなら、オレは何だってするよ」



僕がそう言うと、紅霞は僕に抱きついてまた泣き出した。



「泣くなよ・・・・・じゃ、今度は良い話な。オレ、北京に住もうと思って

る。留学するんだ。いい加減に中国語喋れるようになろうと思って」


「・・・・・・・・・・ホントに?」


「嘘ついてどーすんだよ。まぁ、いろいろ準備もあるから夏ぐらいに

なると思うけど。そんでさ、どっか広い部屋借りて、一緒に暮らそう」


「うん!」




僕は紅霞の父親の手術代30万元を彼女に渡した。きっと自分を『悲劇

のプリンセスを救う王子様』にダブらせて、自分の行為に酔いしれてい

たんだと思う・・・・。



そして彼女と付き合ってまもなく1年になろうとしたころ、北京についた

ばかりの僕の携帯に、紅霞から着信が入った。空港からメールを送っ

たので折り返しかけてきたのだろう。


ところが・・・・・



「あぁ、あんたも紅霞の男だろ。おたく騙されてるよ」



声の主は見知らぬ日本人の男だった。




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