ゴッドハンド

最近では、空手を習っていても、

大山倍達を知らない子たちは多いらしい。

私たちの年代のある層のあいだでは、

大山倍達は「最強」の男であり、

極真空手は「最強」の武道であった。

その理由の一つはやはり、

『空手バカ一代』という大ヒット漫画の影響があるが、

私はあいにくこの漫画にほとんど影響を受けていない。

私にとっての大山倍達のイメージを作ったのは、この本である。

わんぱく空手 (ワニの豆本)

posted with amazlet at 20.01.24

大山倍達
ベストセラーズ
売り上げランキング: 1,133,991

Amazon.co.jpで詳細を見る

当時の私は、ともかく強くなりたかったが

最も興味をもっていた中国武術を習えるところが

当時の日本には少なく、実際に習えるものとして、

この本により、極真空手に興味を持った。

中学生だった私には、安いということも大きな購入動機だった。

今となっては笑い話だが、

カバーには「けんかに強い」と書いてあるが、

読み進めていくと「けんかに使ってはならない」

と書いてあることに少々悩んだ。

また「倍達」の読み方も最初は考えてしまった（笑）。

「バイタツか？」

ある種の説得力があったのは、

この大山が、空手の最強を証明するために、

世界各国で戦って回ったと書いてあることである。

このあたりのことを中心にした本も出されている。

世界ケンカ旅 (徳間文庫)

posted with amazlet at 20.01.24

大山 倍達
徳間書店
売り上げランキング: 434,185

Amazon.co.jpで詳細を見る

これらの本で、逆立ちしたりしながら蹴りを出す、

「カポエラ」という格闘技も知ったりとか、

私のその後の格闘技知識のベースにもなった。

プロレスにはまったく興味のなかった私だが、

そういえば少年チャンピオンで連載していたこの漫画にも、

大山倍達が登場し、タム・ライスというプロレスラーを

三角飛び蹴りでKOしていた。

しかし、このタム・ライスとの対戦は作り話であるらしい。

風雲プロレス30年―力道山からタイガー・マスクまで (第2巻) (Pro‐wrestling‐comic series)

posted with amazlet at 20.01.24

真樹 日佐夫 森村 たつお
飯倉書房
売り上げランキング: 272,785

Amazon.co.jpで詳細を見る

海外では、人との戦いのほかに、

ビール瓶切りや煉瓦割りなどの演武も披露し、

ゴッドハンドと呼ばれることになる。

さまざまな格闘技と戦った大山は、

もはや人間では相手にならぬと、牛との戦いを決行する。

これが、大山倍達のもう一つの代名詞「牛殺し」につながるわけだ。

さらに武器を持った相手や他の猛獣と戦ったらどうなるか？

そんなコンセプトからきた本も出た。

ここらあたりまで来ると、相手が人間なら、

他のどんな格闘技も相手にならないだろうな、

と単純にも思ってしまったりした。

地上最強への道―大山カラテもし戦わば (ちくま文庫)

posted with amazlet at 20.01.24

大山 倍達
筑摩書房
売り上げランキング: 671,945

Amazon.co.jpで詳細を見る

また、この本は筑摩書房からの改版であるが、

もともとのタイトルは『大山カラテもし戦わば』で

この本のパクリタイトルと思われる。

猛獣もし戦わば―-地上最強の動物は?- (1970年) (ベストセラー シリーズ)

posted with amazlet at 20.01.24

小原 秀雄
ベストセラーズ
売り上げランキング: 320,894

Amazon.co.jpで詳細を見る

ここまで、これらの本を大山倍達氏が「書いた」と言わずに

～～の本が「出た」と書いてあるのは、

これらの本が大山倍達氏の筆によるものではなく、

梶原一騎の実弟、真樹日佐夫の

ゴーストライトによるものと言われていることを受けてのことである。

どの本だったかは忘れたが

「大雪の日、誰も来ないだろうと道場を閉めようとしていると、

真樹日佐夫だけがやってきた」というようなエピソードがあったが、

本人が書いたなら、さもありなんという感じではある。

翻って『わんぱく空手』に戻るが、

この本には、大山がただ一度敗北した相手として、

香港の中国拳法の達人、陳老人が登場する。

とき相前後して、

秘伝陳家太極拳入門―老架式 (1977年)

posted with amazlet at 20.01.24

松田 隆智
新星出版社
売り上げランキング: 734,067

Amazon.co.jpで詳細を見る

を読んでいた私は、

この本でおそらく初めて日本に紹介された、

陳発科を上記の陳老人と思いこんでしまう。

福昌堂の雑誌『武術（うーしゅう）』などでも

その名が出され、北京で無敗を誇ったというからだ。

場所が違うだろ、と当時の私にツッコミたくもなる。

このころ中国武術も一大ブームであり、

上記の雑誌『武術（うーしゅう）』がよく売れていた。

現在の日本の中国武術界を支えているのは、

この当時に中国武術を始めた人たちであるだろう。

松田隆智氏の影響は本当に大きかった。

その松田は大山の家に居候していたこともあり、

大山道場で三段を授与されている。

一方でこのころ、UWFという新しいプロレス団体が登場し、

柔道をミックスした空手の大道塾、

レスリングとキックを融合したシューティング

キックボクシングに投げを加えたシュートボクシング

など総合格闘技の流れが起きてくる。

その後、私自身もこれらの流れの一つにのめりこむわけだが、

武道・格闘技に興味をもった比較的初期の段階で、

大山倍達と極真空手に受けた影響は非常に大きい。

今更だが、昨年か一昨年に思い出したように下記の2冊を買ってしまった。

 

秘伝極真空手 (1976年)

posted with amazlet at 20.01.24

大山 倍達
日貿出版社
売り上げランキング: 530,059

Amazon.co.jpで詳細を見る

秘伝極真空手〈続〉 (1977年)

posted with amazlet at 20.01.24

大山 倍達
日貿出版社
売り上げランキング: 944,402

Amazon.co.jpで詳細を見る

大山は剛柔流も学んだが、

「空手に秘伝なし」とは、その開祖・宮城長順の言葉である。