こんばんは。

今夜は問わず語り

(次の話題に入る前の時間稼ぎ)です。

 

私の大好きな指揮者の話です。

 

昔、アメリカにジョージ・セルという
すばらしい名指揮者がいました。
(1897年生まれ―1970年没)


その指揮ぶりは冷静沈着、謹厳実直、
禁欲的、完璧主義者、
最も高潔な指揮者、
とさまざまに形容されます。
「完璧だが冷たい」印象のあるセルです。

 


ところが、このセルが
ごくたまに何を思ったのか
楽譜を無視して血迷った演奏を
することがあるのを発見しました。


コンサートでライブ演奏のセルが
スタジオ録音とは違う熱い指揮をする、
という話が近年話題ですが、


スタジオ録音でも「やっちまった!」と
喝采したくなることが
ごくたまにあるのです。


ディープなクラシックファンには
周知の事実かもしれませんが
わたしのようなにわかファンには
ショッキングだった演奏を
3つ紹介したいと思います。

 

 

Case1:チャイコフスキー交響曲第5番

 

セルはチャイコフスキーの交響曲第5番
(略してチャイ5)の
クライマックスの頂点で
楽譜に書いてないシンバルを
シャーン!と鳴らしてしまったのです!
やっちまったぜ!!


この話をクラシックの好きな方にすると
あのセルが?

チャイ5でシンバル??
ウソでしょ???
という反応が返ってきます。


シンバル一発と言っても、
シンバルを叩く打楽器奏者を1人
わざわざ用意しなければならないので
(ティンパニは自分の出番なので無理)
まぎれもない確信犯です。


そんなの大したことじゃないでしょ、
といっても、
私もこの曲については
30枚くらいのCDを聴いてますが
他にシンバルを追加した人は
聴いたことがありません。


シンバルを追加するのが好きな
ストコフスキーという指揮者も
やってない暴挙(笑)なので、
すごい希少価値です。


だってそもそもシンバルを
使わない曲なんだから
シンバルが無くて当たり前なのに、

派手好きイケイケ指揮者も

やらないようなことを
謹厳実直なセルがやっちまったのです。


これが驚かずにいられましょうか。
ウソでしょ?と思った方は
ぜひ聴いてみてください。
演奏自体はすばらしいですよ。

 

 

Case2:ブラームス交響曲第2番

 

謹厳実直で氷のように冷たく
テンポは最小限にしか動かさない
イメージがあるジョージ・セルですが


ブラームスの交響曲第2番では
第4楽章フィナーレの
クライマックスに突入する直前で
まさかのリタルダンド!!
テンポをぐっと落としてためることです。


えっ!と思うその一瞬が
非常に効果的です。
誰もがハッと息をのむ一瞬です。
まさかそうくるとは……

 


この曲のCDも20枚以上聴きましたが
ここでリタルダンドするのは
私が知る限り
セルとクナッパーツブッシュだけです。


クナッパーツブッシュという指揮者は
テンポを自由自在に動かす人で
ここに着くまでやりたい放題
やったうえでのリタルダンドなので
あまり目立ちません。


ところがここまで謹厳実直に
演奏してきたセルが
最後の最後に
まさかのリタルダンドをすると
やっちまったぜ!!と
叫びたくなるのです。

 


こんな演奏は衝動的に
できるものではなく、
冷たく頑固で厳しいセルの中に
ここはリタルダンドを
やらねばならない、という確信があって、

練習を重ねたにちがいないのです。


冷たい男・セルから
熱いものが噴き出した一瞬です。

 

 

Case3:チャイコフスキー交響曲第4番


セルはチャイコフスキーの演奏だと
血が騒ぐのでしょうか、
チャイ4でもまさかの演奏をやっています。


それは第1楽章の終結部、
まさかと思うような大胆なリタルダンドを
かけたかと思うと、
ティンパニがまさかの
最強打でトレモロ(刻み連打)!!!
音が完全に割れてます。


これはもうやっちまったというより
血の叫びですね。


曲の本質をえぐりだしたかのような
超絶的な解釈です。


セルもレコード会社も
これで良しとして
録り直ししなかったのだから
大したものです。

 

 

セルにはこのほかにも
第九のティンパニの話とか
バルトーク:管弦楽のための協奏曲で
ばっさりカットをやっちまったという
エピソードもありますが
上の3ケースほどおもしろくはないので
割愛します。

 

私もまだ聴いてないセルのCDがあるので

(スタジオ録音はほぼ聴きましたが

ライブはぜんぜん聴いてません)

まだ知らない「やっちまった!」を
ご存知でしたらぜひお教えください。

 

 

それではまた。