1.二人の末裔


 一陣の風が吹いた。全ての命を奪うための熱気を帯びている。熱風は砂を巻き上げ、年老いた男の残り少ない体力を根こそぎ奪っていく。身にまとった外套は砂と汗を含んでおり、重く彼にのしかかる。砂埃から呼吸を守るための布が口元にへばりつく。酷く煩わしいこれらの装備も、日射病や熱射病から守ってくれる。砂漠で生きていくものにとって欠かせないものだ。

目の前には丘が見える。これまでに何十回も超えてきた砂の塊だ。この丘を越えれば・・・。幾度となくそう信じ、そのたびに裏切られてきた。おそらく今回も期待はしないほうがいいだろう。

 足元を見れば、時折骨らしきものが転がっている。草食動物のものだろうか。人間のものではないな。そんな気がした。こんな場所まで来ようとする物好きはいないからだ。また風が吹き、砂の中に骨を埋めてしまった。

 わずかばかり持ち出した水は先刻尽きた。時間がなかったとはいえ、食料を全く持ってこなかったのは失敗だった。あれから三回夜を迎えたが、眠った記憶はない。死の行軍をずっと続けてきたのだ。霞がかかったように重たくなった頭に祖国がよぎる。

 倒れそうになる体を支えているのは、もはや使命感だけだ。自らの為すべきことを果たすまでは、おちおち死んでもいられないのだ。頭ではわかっていたのだが、彼の命の灯火はもはや尽きかけていた。一歩踏み出すごとに生気が抜けていくのがわかる。数々の戦場を駆け抜けてきたが、これほどまでの絶望感は味わったことがなかった。

 さらに風が吹いた。熱き風は彼の身体をなで、無残にも最後の体力を持っていった。白目を剥き、薄れゆく意識の中で思ったのは、祖国であった。

「すまぬ・・・みんな・・・。」