誰にも言わない母は
なかなか親戚や兄妹と
連絡を取ろうとしなかった
近所の人にも言わないまま
それが
もどかしくもあり
悲しくもあり
苦しくもあり
また感情が振り出しに戻り
嗚呼、私も誰にも言いたくないし
嗚呼、母は癌なんだな
と思っていた

副作用をスマホで
夜な夜な調べては
無駄な知識ばかりついて
ひとつボタンを間違えると
生存率にいきつく
そこからはドツボなので
頑張っている人のブログや
通院をしながら生活をしている人をみて
きっとこういうふうになるんだ
きっとこんな事もできるんだ
だったら
ゆっくりゆっくり戦って行こう
そう思いながら泣いた

桜が散り始めて
緑が濃くなってきたから
今日は暖かいから
庭の花が咲いたから

下手な口実は
まるで無意味な毎日だ



気力が無くなった母は
味覚がおかしいと言い出した。


癌が宣告される前日まで
買い物に行き
洗濯をし
料理をし
掃除をし
テレビを観て笑い
ソファーに座り
1日を過ごしていたはずの母は
あの日から
横になったまま
何もしなくなった。


抗がん剤治療の前に
3日間の入院をし
左胸にポートという機械を取り付ける
手術が行われた。
入院をする日も、入院してからも
不安という言葉しか頭になかった。
誰に話を聞いていいかわからない私は
少しでも母の気力が持ち直せないかと
担当の看護士さんを引き止め
話を聞いてもらった。
泣く予定の無かった私は
病室の外でマスクがしぼれるほど
看護士さんにすがるように泣いた。
それでも何も変わらない日常に
いまだ母が癌だと
受け止める事が出来ない私は
何をするにも
母はツラいのに、母は癌なのに
どんどん自分の行動をせばめていった。
そうしないといけない気がして
周りの人を軽蔑するまでになった。


母が、たった3日家にいないだけ
これが旅行なら
何も思わなかったのにな。
18時過ぎに病院にいる母からきたメールは
食欲がないです
という内容でした。





母が癌だと宣告されてから
私は
仕事中に母と同じ年代の人を
みかけるだけで泣くようになった。

お風呂に入っても
トイレにいても
部屋でも
テレビを観ていても
寝る直前も
泣いていた。毎日毎日毎日。

その一方で
母はまったく泣かなかった。
泣けなかったのか、泣かなかったのか
誰もが信じられずにいて
ただただ時間だけが過ぎ
検査をする日の朝
母を見送ったあとも
私は洗濯を干しながら泣いた。


大きな病院に紹介状を書いてもらい
検査に行って帰ってきた母は
とても疲れていた。
これからの長い戦いに向けて
覚悟を決めたような事を
口にはしていたのだけれど
癌という現実に
ここから
さらに気力がなくなってしまうのだった。





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