映画『国宝』歌舞伎ファンでないと分からない寺島しのぶの存在迫力
映画『国宝』を僕は評価しませんそれは後日の記事にて書きますがこの映画で一番迫力あったのはなんといっても七代目尾上菊五郎の長女でもある寺島しのぶ歌舞伎を長年 観てきて寺島しのぶの人生が 歌舞伎の家しかも音羽屋宗家の長女として生まれながらも女に生まれてなりたい歌舞伎役者になれなかった忸怩(じくじ)たる思いのある意味 集大成を松竹ならぬ東宝の映画でやっちゃったのだからすごい!彼女が歌舞伎の稽古や本番を観る目や表情は違います本物の歌舞伎の家の者が観る目です顔です一番すごいな と思ったのは寺島しのぶの祖父 尾上梅幸が得意とした「藤娘」の稽古を見つめる顔と表情とその奥にある「想い」これは梅幸旦那を見たこともなく音羽屋宗家のことも知らないでただ映画だからといって観たような若い人や歌舞伎に興味がない人には分からなくて当然そのことは罪でもなければ 勉強不足でもないし 勉強できるものでもないそういう意味では寺島しのぶが出たことでこの映画には 歌舞伎という伝統芸能の社会の一端がきちんと表現されたと言ってもいいだろう彼女なくして 継承していくのが歌舞伎という大前提が描ききれなかったかもしれない逆にこれが 吉永小百合だろうが天海祐希だろうが どんな大女優だろうが着物の着こなしを含めて 他の女優であったら大失敗していたことでしょう役作り なんて生やさしいものじゃない寺島しのぶのこの作品での役作りは音羽屋宗家の長女として生まれた時からのものでしかないし 数週間とか数ヶ月とかどこそこで猛烈に訓練したからできるような役作りではありませんだからこそ 松たか子でも演ってはいけない役だった寺島しのぶの役をふくらませて 別の映画なり予算たっぷりにテレビドラマ化したら女性目線で見せる いい歌舞伎ドラマか映画ができるだろうに と思ってしまうおんなたちの忠臣蔵があるように前から思っていることだが寺島しのぶが女に生まれたことで演劇界と映画界は ずいぶん得をしてきた父・七代目尾上菊五郎の芝居っ気とちゃめっ気のDNAを完璧に受け取ったのは寺島しのぶであって 八代目・尾上菊五郎(弟)ではない舞台で『近松心中物語』をご覧になった方には説明不要いま寺島しのぶのその父ゆずりのDNAを受け継いだのは息子の尾上眞秀(おのえ・まほろ)眞秀くんが成長して 劇界をうならせた後にはその母 寺島しのぶがこの映画で見せた歌舞伎役者の妻であり母である迫力は 別次元に見えたり全く異なった見方ができるようになる可能性は高いこれまで寺島しのぶはテレビの単発ドラマ『幽婚』を含めて 堂々たるヌードシーンやラブシーンを披露してきたし それが迫力となり名演技となり話題にもなったが今回は瀬戸内寂聴を演じた時のような剃髪もヌードも一切なしで ワンシーンだけ墓参りの時に怒り爆発心の奥にあるものを全て吐き出すようなセリフ以外ドラマチックな場面と呼べるものがないのにどうしてここまで迫力ある歌舞伎界に身を置く女を演じられるのか 研究に値すると言ってもいい原作は未読なので不明ですが 仮に彼女の役が実際に大物歌舞伎俳優の娘だったとしてもこの映画の寺島しのぶは きちんと役を役として演じているものの 彼女の実人生を40年以上歌舞伎ファンとして見てきた つまり知ってる者の知識が邪魔にならないというのも 実はすごいことなんです演じているのは寺島しのぶでも 彼女が演じているのはこの映画に登場する役でしかないいろんな角度から映画『国宝』は見られ少なくとも歌舞伎関係者を含め ずいぶん褒められているけれど 歌舞伎も映画も好きな人たちに言いたい寺島しのぶ無くして この映画は成立しなかった