じゃぁな 翔ちゃん
ありがとうございましたっ
おやすみなさい
お気をつけて、おやすみなさい
常連さんが次々と帰っていく
もうこんな時間か
そろそろ閉めるか
マッサージ椅子でうたた寝をしているじいちゃんを横目に見て、暖簾をしまいに行こうとしたその時、外からドアを押す人の気配がした
今頃、誰だろう
ガラガラと戸を開けると、向こうに真っ赤な顔をした眼鏡の女の子が立っていた
引き戸だよ
え、あ すみません
違った、男の声だ
Tシャツのラインも細すぎる
どうやら引き戸を一生懸命に押していたようだ
天然かよ
眼鏡を外し、曇ったレンズを指で擦った彼はTシャツ一枚に細身のジーンズ
ファッション雑誌に出てくるモデルのように、華奢な身体に小さな顔
お客さん、これから?
はい…
あの まだ大丈夫ですか?
大きな瞳に見つめられ、思わず手にした暖簾を落としそうになる
どうぞ
自分の声がうわずってるのがわかった
