ニノはシーッと人差し指を俺の唇に充てた
着いた先は民家の裏にある物置き小屋
ここ？
うん
大きなシャベルや草狩り機が置いてあり、撮影のために刈りとったのだろうか、小屋の入り口には枯れ草が大量に積まれていた
いいのがあったよ
ニノが小さい脚立を見つけてきた
これなら二人で座れるよ
枯れ草の山を背にして座れば、向こうからは見えなくなる
静かで落ち着くね
ね、いい場所でしょ
うん
三ヶ月、あっという間だったな
俺の夏の思い出は翔ちゃんだよ
え？
ニノは俺の手に自分の手を重ね、頬にキスをした
え、ちょっ、待って
うわっ
ひゃっ
突然の事にジタバタしたはずみで、俺たちは脚立ごとひっくり返った
大丈夫？
怪我してない？
大丈夫だよ
翔ちゃんは？
俺も大丈夫
運良く枯れ草の上に倒れたおかげで、二人とも助かった
まだ全部のシーンを撮り終えてないのに、怪我をするわけにはいかない
翔ちゃん
服が枯れ草だらけだよ
あっ本当だ
ニノもいっぱいついてるよ
うわぁ どうしよ
やっべ、スタイリストさんに怒られるぞ
なんか楽しいね
シャツや髪についた草を取り合いっこしてると、ニノがふふっと笑った
ニノの笑い声好きだな
え？
ニノがキョトンとした顔で俺を見た
笑い声、だけ？
いや いや
そうやって首を傾げるの反則だから
翔ちゃん？
やばいぞ、このシチュエーション
だって俺には潤がいるし
翔ちゃん…夏が終わっちゃうよ？
そうだ
今年の夏はもう二度とこないんだ
今度は俺の方から小さな手に自分の手を重ねた
クリームパンみたいに柔らかい手を握ると、ニノが思いのほか力強く握り返した
ニノ？
翔ちゃん、じっとしてて
え、なに？
ニノは目線は俺の後ろを見ていて、思わず振り返ろうとしたら
動いちゃだめ
誰かいるの？
うん
誰？
はち おっきいの
後ろにいる、だから動かないで
はち？
えっ！？蜂！！！
次の瞬間、俺はニノの手を掴むと小屋を出て一目散に走った
続く