一人になった俺を心配して、海斗が一緒に住もうと言ってくれた
心配いらない、大丈夫だから
やんわり断った
一周忌の法要が終わって、俺は都心のマンションを引き払い郊外の一軒家に引っ越した
昭和の時代に建てられた木造の平家は、古いけれどきちんと手入れがされていて、小さな庭には木が植えられていた
キッチンと風呂にリビングと寝室、一人暮らしには充分な広さだ
朝起きてゆっくり新聞を読んで、簡単な朝食を済ませてから洗濯と掃除をしてジムに行く
帰りに図書館で本を借りて、夜はスーパーで買った弁当を食べて少しのウイスキーを嗜む
コーヒーとパンを焼くくらいで、自炊はしない
洗濯は自分の分だけで、小さな家だから掃除もたかが知れている
時折、友達や後輩が訪ねてくれる
今日は増田が来てくれた
翔くん、料理作ってきたよ
煮物とカレー、冷凍庫に入れておくね
いつもありがとう、助かるよ
だけどいい加減、くん付けはやめろよ
俺をいくつだと思ってるんだ
ごめん、つい
これでも他の人がいる時は気をつけてるんだよ
ま、いいけど
ね、翔くんは寂しくない?
もう、慣れたよ
再婚はしないの?
まったく、考えてないよ
そっかぁ
一人がいい
傍にいる誰かがいなくなるのは、もう二度と御免だ
翌年の春、庭の木の枝に蕾がついて
それが桜の木だと知った