1月に子供を歯医者に連れて行った。
幼稚園でも歯磨きの指導はあるし、家でも毎日せっせと仕上げ磨きに精を出していたが、歯と歯の間に茶色の染みのようなものができ始めたのだ。
歯ブラシを口に入れるのが嫌いな子なので、歯医者で治療するとなれば修羅場が待っているのは想像に難くない
暗澹たる気持ちになっていたところ、夫が同僚から子供が嫌がらない歯医者というのを聞き込んできた。
とても丁寧に診療するので、診療代は高いけど、過去に歯の治療でトラウマになった子も、その歯医者なら嫌がらないという。

日本では国民健康保険に入っていれば、どの医者・病院に行こうと現役世代は3割負担だが、ブラジルでは健康保険は職場ごとや各個人で内容が異なり、適用できる医者・病院も違ってくる。
我が家の場合、夫の職場の健康保険を使用できる医者であれば1割負担だが、この評判の歯医者は残念ながらカバーされない。
それでも、好奇心も手伝って、ちょっと連れて行ってみよう、ということになった。

その歯医者はイタリア系の女医親子であった。
広々とした診察室に、歯医者のあの椅子は一つだけ。窓辺や先生の机には、子供向けの細々とした玩具がきれいに並べてある。
診察室に入った瞬間から治療が終わるまで、女医親子の飴のように甘いマシンガントークに、我が家全員が圧倒され続けだった。
それだけではなく、なるほどと思ったのだが、一つ一つ診療に使用する道具を事前に子供に触らせていた。
椅子の上げ下げで遊ばせたり、口腔内のだ液を吸うバキュームや歯に水や空気をあてるシリンジで遊ばせたり、歯に塗るフッ素の匂いを嗅がせたり。
子供の好奇心を刺激して、治療への恐怖心を抑え込む徹底したやり方に感心した。

幸い虫歯ではなかったものの、歯の染みを機械でゴロゴロと磨き、歯ぎしりで欠けていた部分は詰め物をし、かなり口の中をいじられたが、子供は泣くことも逃げ出すこともなく大人しく最後までされるがままになっていた。
軽く歯磨きの仕方のアドバイスを受け、ついでにまだ乳歯も生えていない下の子の口に、医療用グローブをした指をスッと入れて歯茎をなぞり「将来の歯並びは大丈夫そうですよ」と太鼓判を押されて診療が終わった。

正味3時間、800レアル(約16,000円)也。

単純に歯の治療と見れば高い。
が、一度だけと割り切って、医者2人の時間を3時間使い、子供の歯医者に対する気持ちも前向きなものにしてもらったと考えれば、行って良かったとも思えるのだ。