過日、霞が関で夕方に終業となり、夜の待ち合わせまで1時間半ほどあるので、時間調整を兼ねて中央区でひと風呂。
向かったのは、有楽町線新富町駅から歩いて5分ほどの「入船湯」さん。
ビルの地下にある都内では珍しい銭湯で、過去に何度か入った経験から、昔ながらの風呂屋の風情はないものの、広々したロビーと脱衣場、機能的な浴室で快適な時間を過ごすことができる空間との印象がある。
久々の入船湯さん訪問に足取り軽く階段を降りると、踊り場にこうした貼り紙が。

この日偶然足が向いた入船湯さんだが、最終営業日の5日前に滑り込む結果となり、同じような経緯で最晩年の湯に浸かった四谷の塩湯さんを思い出す。 フロントのおかみさんに貼り紙の件を尋ねると、書いてあった通りビルの建て替えによる閉業とのことで、別の場所での営業などは行わないとのこと。
残念な気持ちで服を脱ぎ、浴室に入ると地元の旦那さん方が数人いらっしゃり、空いたカランで体を流して湯船に浸かる。
壁の絵はお決まりの富士山ではなく、四代目歌川国政による「新規造掛永代橋往来繁華佃海沖遠望之図」のタイルレプリカが掲げられている。
架橋間もない江戸時代の永代橋を渡る人々の賑わいの向こうに佃島沖の海が耀く遠望之図には、右下に「版元 蔦屋吉蔵」の文字があり、この絵とは直接関係ないが前回の大河ドラマを見逃したことを思い出す。
熱めの湯で体をゆっくりほぐしてから浴室を出て、ドライヤーで髪を渇かしながら、これが最後の入船湯さん訪問になるんだろうなぁ、と惜別の情がこみ上げる。
このビルに入ってから35年にわたり営業を続けてきたというフロントのおかみさんに「長い間お疲れさまでした」と声をかけると、「頑張ってね」と励ましの言葉をいただいた。
