過日、今年15蔵目の酒蔵訪問。
向かったのは埼玉県深谷市。
大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一の出身地としても知られる埼玉県北部の街で、私にとっては高崎線から見える「菊泉」と書かれたレンガ煙突がランドマークとして印象に刻まれており、列車で通るたびにいつか蔵を訪ねてみたいと思っていた。
深谷駅周辺には以前クルマで1度立ち寄ったことがあるが、その時は幼かった長男の手をひいて東京駅を模したレンガ風橋上駅舎や駅裏の公園をブラブラするくらいで、酒蔵訪問なぞ思い浮かびもしなかった。
今回は、鈍行列車で訪れる気ままな独り旅なので、試飲を絡めて酒蔵巡りを楽しみたい。
駅を出て午後の深谷の街を酒蔵目指して歩いていると、それらしき煙突を発見。銭湯にしても酒蔵にしても煙突を備えている場合が多く、街歩きの際の目印として重宝する。
煙突が近づいてきて、その敷地の前に古めかしい母屋と店蔵が並ぶ様は昔ながらの日本酒蔵そのもの。

建物に掲げられた看板をよく見ると、記されている銘柄は右から「七ツ梅」と書かれていて「菊泉」ではない。
「深谷宿本舗 営業中」のノボリに誘われて母屋と店蔵の間を奥に進むと、観光客らしき数人がスマホに元酒造場内の風景を収めている。
スタッフの男性が教えて下さるには、こちらは1694年に創業し2004年に廃業した「七ツ梅酒造」の跡地を一般社団法人「まち遺し深谷」が、施設の保存・運営を行っているスポットだそう。
精米蔵や釜屋をはじめとするかつての酒づくり関連の施設を保存・活用しながらカフェなどの店舗やギャラリー、ミニシアターなどが設けられており、観光スポットとコミュニティスペースを兼ねた街おこしの拠点となっているようだ。
敷地内は自由に歩くことができ、先ほど目印として目指したレンガ造りの煙突も近くから見上げることができる。

菊泉のレンガ煙突を目指す途中の思いがけぬ寄り道でいい時間を過ごすことができた幸運に感謝しながら、再び深谷の街を歩き始めた。
(つづく)