8月の某日、いつまで続くとも知れない暑さに朦朧としながら、5月に訪れた茅ヶ崎のつちや商店で話題に上った松田の日本酒「松みどり」を味わってみたいと考えていたら、どこかで吞んだような気がしてきた。
なかなか思い出すことができず、進行する脳の老化に落ち込みつつも、それなら松田の酒蔵を直接訪れようと気持ちを切り替えた途端、吞んだのは確かあの店だ、と記憶の回路がおぼろげながらつながった。
その頼りない記憶を確かめるため、長男とともに町田から小田急ロマンスカーMSEに乗り込んだ。
長男とはこれまで、MSEのほかVSEやLSEにも乗車したが、最新鋭のGSEには乗れていない。
数年前、箱根に向かうため家族4人分のGSEチケットを往復分用意したものの、新宿からの往路のみならず、翌日の復路も人身事故の影響により運休になった経験から、何となくGSEを縁遠く感じている。
一方で、VSEはサルーン席(セミコンパートメント)で駅弁を食べて箱根に向かった楽しい記憶があるせいか、息子2人とも1番好きなロマンスカーに挙げており、 今年の早過ぎる現役引退を惜しんでいる。
MSEは、相模川を渡って本厚木を過ぎ、大山丹沢の山々を見ながら小田原を目指す。6両編成の車内は座席が半分埋まるくらいの乗り具合で、 アルコールを楽しむ人もチラホラ。
渋沢を過ぎて左にカーブを切ると、酒匂川に注ぐ四十八瀬川~川音川の流れと絡み合いながら、舌状に伸びる松田山の東麓を進む。小田急の中でも大好きな風景で、ロマンスカーと絡めた構図は、カレンダーやポスターでもよく見かける。
景色が開けてきて、右にJR御殿場線への短絡線を見ると、「松みどり」を醸す中沢酒造さん最寄りの新松田駅が現れるがMSEは通過。
酒匂川を渡り直線を飛ばすと箱根の山々が見えてきて、右に大きくカーブしながら東海道新幹線をくぐると小田原到着。
長男とはこれまで小田原を10回以上訪れており、そのうち約半分はクルマで来ているが、あと1年半もすると彼も免許が取れる歳になり、私が吞んだ時の運転を頼むことができるなぁ、と密かに考えながら目的の店を目指して歩く。
10分ほど歩いてお目当ての「だるま料理店」に到着。14時を過ぎているが表には入店を待つ客がいて、こりゃ長期戦かと覚悟を決めかけていると、精算を済ませた客が次々に出てきて、すぐに席に案内される。
1926年に建てられた歴史ある建物は、唐破風を備えた外観はもちろん店内も格天井をはじめ寺社のような和式建築で、国の登録有形文化財にも指定されている。
満席の店内は、家族連れやカップルなどで賑わっており、その半分ぐらいが天丼と刺身のセットを頼んでいる。
長男は3回目、私は5回目の来店だが毎回メニュー選びに迷う。結局、長男は天丼と刺身のセット、私は海鮮ちらしセットと酢の物、そして本日のお目当てである日本酒を。
アルコールメニューには、「日本酒(沢の鶴・松みどり)」とあったので、もちろん松みどりを注文。しかも真夏日にもかかわらず熱燗で。
海鮮ちらしのネタや小鉢を肴に松みどりの熱燗チビチビ。
