昨年末に伊香保、渋川を訪れた翌日、吾妻線に揺られて川原湯温泉を訪ねた。
吾妻線には何度か乗っており、終点の大前にも2度訪れているが、川原湯温泉には立ち寄ったことがなく、温泉とともに八ッ場ダム建設に伴って一部区間が移動した線路の付け替え区間に乗りたい気持ちもあった。
渋川駅を921発の大前行きに乗車。4両編成の車内は、ロングシートが7割程度埋まる乗り具合で、休日にしてはまずまずの利用状況だが、前の列車とは約1時間半、次の列車とは約2時間間隔が空いていることを考えると、旅客流動はそれほど太くなさそう。
列車は渋川駅を出ると、左カーブを切りながら上越線と別れ、利根川の支流である吾妻川に沿って徐々に高度を稼いでいく。
列車は、25メートルレールの規則正しいジョイント音を刻みながら山あいを単調なリズムで進む。1人なら心地良くて寝落ちしそうだが、同行いただいた先輩と2年ぶりのトークを楽しんでいると、いつの間にか線路付け替え区間手前の岩島駅に到着。発車すると、直進していた旧線跡を右手に見ながら左にカーブして、真新しいコンクリート橋で吾妻川を渡ると、全長4489メートルの八ッ場トンネルに入る。
列車は、時折パンタグラフから爆ぜるスパークを壁面に写しながら、トンネル内をひたすら上り勾配で進む。7年前に運用開始した八ッ場トンネルは鉄道トンネルでは新入りの部類で、最新技術が投入されているのだろうが、暗闇を進む中にあって技術革新を感じられるほどの知識も経験も持ち合わせていないのが悲しい。
民主党政権時代、八ッ場ダム建設を巡る曲折の只中には、同行の先輩も私も所管省庁の記者クラブに属しており、土木・建設技術を専門に扱う記者も身近にいたが、門外漢の私は無知そのもので、説明資料の用語すら理解できなかった。
トンネルを抜けると、右手にダムが開けて川原湯温泉駅に到着。

簡素な島式ホームから駅舎に上がると、駅員の姿はなくICカードの読み取り機もない。列車から降りた私たちを含む約10人の乗客は、手にした乗車券やスイカの行き場のないまま駅舎から出て、それぞれの目的地に向けて散っていく。
われわれは、次の下り普通列車までの約2時間を八ッ場ダム見学と風呂に充てるつもりなので、ダム湖(八ッ場あがつま湖)のほとりを下流方面に向けてぶらぶら歩く。ダムの稼働は2020年4月だが、ダム湖だけを見ていると、よそ者には昔からある風景のようにも思えてくる。

前日に続いて師走とは思えない穏やかな気候で、先輩とのハイキングを快適に楽しめる幸せに感謝しながら、遠くに見えている八ッ場大橋を目指し歩を進めた。
(つづく)