11月のとある平日に降り立ったのは青梅線御岳駅。青梅で乗り継いだ奥多摩行きは、ハイキング姿のシルバー世代で賑わい、立ち客も出る乗り具合だったが、御岳で半数ほどが降り、さらにその半数ほどが駅前から出るケーブル下行きの路線バスに乗り継いだ。バスは定期1台に加え増発の1台も用意されており、電車からのハイキング客を程よく分散乗車させて発車していった。

御岳駅はその名の通り御岳山への最寄り駅で、バスとケーブルカーを乗り継ぐルートがメジャーだが、私はトイレを済ませてから、駅のすぐ脇を流れる多摩川が刻んだ御岳渓谷に続く坂道を降りた。渓谷には河原沿いに遊歩道が整備されており、紅葉が川の流れに彩りを添えている。

左岸を上流に向けて歩きながら、時折マスクをずらして山の空気を吸い込むと、やっと自然の中に身を置いた実感が沁みてくる。数百メートル歩くと、杣の小橋(そまのこはし)が見えてきたので、階段を上がり対岸に渡る。

右岸側に降りて坂道を上がると、あずまや風の休憩施設やトイレなどがあり、紅葉もとりどりの色合いで目を楽しませてくれるので、リュックからペットボトルを取り出して、水分補給を兼ねてひと休み。

5分ほど休んでから、ふたたび上流方向に歩くと、東京都交通局の多摩川第三発電所があり、さらに進むと、急に獣道のような細い道になり、足場も悪くなってくる。

そんな細道を5分ほど歩くと、右手に神路橋(かみじばし)が現れ、左手には急な上り坂が吉野街道に続いている。神路橋に立って川の流れを眺めた後、息を切らせて坂道を上ると、そこには武蔵御嶽神社の一の鳥居があり、傍らには中野というバス停のポールが立っている。

先ほど駅前で見送ったバスは、30分ほど前にこの鳥居をくぐってケーブル下への坂道を上っていったはずだ。私はこのままケーブル下を目指そうと、歩いて鳥居の奥に続く十里木御嶽停車場線を辿る。脇には多摩川の支流の小さな川が道に絡むように沿っており、さらにその支流が合流してくるので橋を3度渡る。

回りに人がいないので、マスクをずらしたまま山の空気と境内の霊気を取り込みながら参道を進むが、勾配がだんだんきつくなってきて息が切れる。一の鳥居をくぐった時には20分後のケーブルカーの発車を目指して歩き始めたが、ちょっと厳しそう。

ケーブルカーは30分ごとに運転されているので焦る必要はないが、目指していた便はバスからの接続を受けないので混雑しない可能性が高い。そんなこともあり諦めずに上り続けたが、ケーブルカー利用者のために用意された駐車場のうち、もっとも下にある週末用駐車場を過ぎたあたりで発車5分前を切ったので次発利用を決めた。少し歩くと、ケーブル下バス停があり、ちょうど御岳駅からのバスが到着。

ケーブルカーが発車する音が聞こえてきて、バスからの客とともに次のケーブルカーを目指して駅への坂道を上る。同じ京王グループである西東京バスの到着前にケーブルカーが発車するのは不親切な気もするが、バスのほうは45分ごとに上下列車が御岳駅で行き違う青梅線の列車に合わせて運行されているので、接続のいいパターンとそうでないパターンがほぼ交互に訪れる。ケーブルカーの麓側の駅「滝本駅」に着き、券売機でSuicaで往復乗車券を購入して改札前に並ぶ。

次発は1245と表示されており、やれやれ25分待ちかと、坂道で汗ばんだ額を拭っていると、「業務放送、次発は1230臨時です」の声がスピーカーから流れ、すぐに改札が始まる。平日とは言え、紅葉シーズンなので客の数を見ながら柔軟に運行しているのだろう。
ラッキーだと思いながら、乗車券にスタンプを受けケーブルカーの車内で発車を待った。
(つづく)