渋川「地酒屋 ぽん」 | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

過日、群馬は渋川で一杯。と、その前に風呂とバス。

昨年12月に知人の居酒屋の開店祝いに訪れてから25日ぶりに降り立った渋川駅前より関越交通バスの伊香保温泉行きに乗車。
やって来たのは、20年目を迎えたいすゞキュービックLV380。



今では、環境規制の関係で大都市からは姿を消し、地方でも引退の進む同型式だが、関越交通の渋川営業所では集中配備体制が崩されておらず、勾配のきつい渋川駅~伊香保温泉間では今でも主役を張り、V型8気筒エンジンから放たれる独特の重低音を榛名の山間にとどろかせている。

乗車した便は伊香保への投宿に便利な時間の列車からの接続を受け、通路をはさんで2席ずつ座席が配された着席重視の車内はほぼ満席。
渋川駅から伊香保温泉までは、登攀と呼んでもいいほどの登り片勾配で、乗客が多いほど唸りをあげるエンジン音が楽しめる。
同行の友人もバス好きで、しかもバスの整備士からドライバーに転じた人間なので、遠慮はいらない(何の?)。

できれば、最後部席でエンジン音を存分に味わおうと考えていたが、われわれより先に乗り込んだ女子旅5人組に陣取られてしまったので、後部ドア直前に2席設けられた1人席に前後に並んで座る。

発車すると、独特の振動とサウンドが車内に響く。これはいいぞと思っていると、ドライバーさんの特徴ある車内放送が。
最初は、車内は公共空間だから飴を含め飲食は禁止、と強い口調で述べ立て、続いてフリー乗車券の案内、道路の段差通過の前には注意喚起が差し挟まれ、それらの案内の間には途中停留所の案内も加わり、さらにすべての案内の後に英語がつく。

会社の方針か個人的なサービスかは知らないが、都会のバスなら間違いなく苦情が来るレベルだ。
一応、観光地と都市部の両方でバス業務に携わった経験から言うと、観光地ならギリギリセーフかとは思われるが、案内につまるとアクセルが緩むという癖があり、しかも案内に集中しているせいか停車時のブレーキがかなりキツい。

まあ、機械のようなドライバーよりサービス精神に溢れた運転手さんの方が車内の雰囲気は良くなるが、エンジン音を楽しみにしてきた奇特な乗客にとっては、無愛想にアクセルを目一杯踏み込む強面の方のほうがありがたかった。

終点までの約30分間しゃべり通したドライバーさんから案内のあった1日乗車券を購入して、多少の疲れと消化不良感を覚えながら、伊香保温泉のバス停に降り立った。
同行の友人は同業者だけに、私以上に疲れたらしく、早く湯に浸かって身も心も軽くする必要がある。

一般企業では仕事始めに当たる日だったせいか、石段を行き交う観光客はそれほど多くなく、ゆっくり歩くことができる。



石段の先にある神社まで登りお参りを済ませ、折り返して365段ある石段を中ほどまで降りたところにある「石段の湯」に入浴。

決して広くはないが、黄金色の伊香保の湯に410円で入ることができるのはありがたい。
こちらも客が少なく、8席しかない洗い場の順番待ちをする必要もなく、快適に湯浴みができた。

さっぱりしてバス停に戻ると、渋川駅行きが3分の間隔で雁行する。先に発車する伊香保榛名口からの急行便は予想に反して誰も乗っていなかったので、これに乗車。今度のドライバーさんは、先ほどとは打って変わって無口で、できればこの方の登り便に乗りたかった。
途中バス停からも数人乗ってきて、合計7~8人程度の乗客を乗せて、渋川駅までの下り坂を降りていく。
発進時などにはV8エンジンらしい野太い音が響くが、やはり下りは軽やかだ。
20分ほどで夕刻の渋川駅着いた。

1日乗車券を持っているので、もう1往復しても良いが、また「外れ」に当たるのはごめんなので、今回はこれくらいにして、数ヶ月に一度「定点観測」に訪れよう。

湯上がりに何も呑んでいないので、25日ぶりに友人の居酒屋へ。
駅から2~3分ほど歩いた学習塾の2階に、その居酒屋「地酒屋 ぽん」はある。

47都道府県の地酒をそろえ、しかもどんな種類の酒もいやがらずに燗してくれるのは、吟醸香を冷酒で呷るスタイルが幅をきかせる昨今の日本酒ブームに背を向ける私のような偏屈な酒好きには大変ありがたい。
夫婦で日本酒を愛し、私と好みの傾向が似ている友人が開いた居酒屋なのだから、不満などあるはずはないが、気軽に来ることのできる距離じゃないのは、なんとも惜しい。

だから、今回も予定していた電車の発車時間までの約3時間、しっかり呑もうと、意気込んで階段を上がった(今朝は二日酔いだったような・・・)。
ドアを開き、新年のあいさつを済ませカウンターに座ろうとすると、これから雑誌の取材が入るという。

その邪魔にならないように窓際のテーブル席に座り、私はビールで喉を潤すが、同行の友人は酒を飲まないので熱いお茶。
ビールを済ませ、山梨の「春鶯囀(しゅんのうてん)」の「鷹座巣 純米酒」を45度の燗で所望。

薄味でおいしいお通しの切り干し大根で鷹座巣ぬる燗を味わっていると、雑誌のカメラマンが登場。
カメラマンは、店内をひと通り撮り終えた後、料理や日本酒の「ブツ撮り」に突入。
そういえば、私の記者生活のスタートも地方での飲食店紹介記事ばかりだったなぁ、なんて懐かしく思い出す。

と、ブツ撮りに使われた酒と料理がわれわれのテーブルに並べられる。
酒は飲み比べ用の60ミリが3種類と、先月お土産にもいただいた群馬の「まことの想い」無濾過特別純米原酒21BYが1合ほど。

飲み比べ用の3種類を口に含む前に香りを楽しむと、そのうちの1種類から強烈に記憶に残る匂いが。
確かめると、千葉の「香取」の精米歩合90%という純米酒で、やはり先月こちらのお店で呑んでいた。
糠のような匂いだけでなく、飲み口もほかの酒とは違う米の表情が出ているが、決していやな面構えではなく、米を味わう喜びが。

「まことの想い」も米の表情がしっかり出ている個性的な特純原酒の古酒だが、先月お土産に頂戴した翌日に一杯だけいただいた後、3週間寝かせたら劇的においしくなって驚いた。
通常、このスペックだと、飲み飽きしてくるものが多いが、「まことの想い」は呑み進むほどに澄んでくるような感覚になる不思議な酒で、やはり酒はデータではないのだという当たり前のことを実感させられる。

そんなことを想いながら、鶏肉の粕漬け焼きをはじめ、どれもおいしい料理の数々をいただいていると、酒を呑まないはずの友人が「少し呑もうかな」と言うではないか。
35年間の付き合いで、彼が日本酒を呑んだ場面を見たことがなく、てっきり下戸だと思っていたが、全く呑めないという訳ではようだ。
呑んだ時の私の惨状をいくつも見ているので、一緒に呑んだら収拾がつかないと考えてのことだったら、これまで申し訳ないことをした。

彼は「陸奥八仙」を呑んだ後、「七田」を追加し、八仙のほうが好みだという。私は、そんな彼を驚きながら見つめつつ、初めて酒を酌み交わした店が「地酒屋 ぽん」だったのが、とてもうれしい。

電車の時間が迫り、安すぎる会計を済ませ、渋川始発の「カボチャ電車」こと115系湘南色のボックス席で帰路に就く。
同行の彼とは115系のボックス席で全国を旅してきたが、あちらがほろ酔いなのは初めて。

何だか、複雑な想いだが、「地酒屋 ぽん」の雰囲気が幼なじみに私と日本酒を傾ける気にさせてくれたのだと思うと、「縁は異なもの味なもの」ってやつだなぁ(男女の仲ではないけれど)、と実感した。