夜の片町は雨に煙ってはいたが、週末とあって、若者やサラリーマンで賑わっていた。タクシーに私を押し込んだおじさんふたりと、店探しをしていると同じく大名茶屋から来た別集団と遭遇。あちらは若手中心で約10人。互いに合流を切り出さないのは、求める店格の違いか。結局、こちらは他愛ない店で水割りを呑んで撤収。健全な金沢のナイトスポットに多少ご不満気味のおじさんたちを、今度は私がタクシーに押し込んでホテルに戻った。
翌日は、元乗り鉄のTさんと、北陸鉄道乗りつぶしを決行することにした。
金沢は何度も訪れているが、北陸鉄道には乗ったことがない。せっかく金沢まで来て、汽車ポッポに時間を費やすのは、さすがの私でも贅沢過ぎる?(要は時間がもったいない)との思いから乗らずじまいだったのだが、今回は帰りの新幹線まで時間に余裕があるし、同好の士がいるのも嬉しい。40過ぎのおじさんふたり、“青春鉄路いま再び”の意気で朝の金沢駅から北陸鉄道石川線の始発駅である野町行きのバスに乗り込んだ。
15分ほどで野町駅到着。

まだ朝の9時台とあってひっそりとしている。駅前には野町湯という銭湯があって、朝湯でもしたいところだが、まだ開いていない。電車の発車まで15分ほどあるので、駆け足で「にし茶屋街」へ。「ひがし茶屋街」「主計町(かずえまち)茶屋街」は有名で、私も何度か訪れたが、にし茶屋街は初めて。ひがし茶屋街に比べてコンパクトで人も少なく、駆け足でちょうどいい。
野町駅に戻り、鶴来(つるぎ)行きに乗車。元東急の7000系で、綱島出身・在住のTさんは懐かしがっている。

時間が来て発車すると、右にカーブし、暫く金沢の市街地を走る。景色は都会だが乗り心地はローカル線そのもので、のんびり。JR北陸本線との接続駅である新西金沢を出ると、今度は大きく左カーブして住宅の間を縫って走る。
北陸鉄道はかつて、石川県内で広範にわたって鉄道事業を展開していたが、現在では石川線と浅野川線の2路線となっている。その2路線も末端区間が廃止されて今の姿になっているが、今後も予断を許さない。石川線も野々市あたりまでは沿線に人口が張り付いており、金沢のベッドタウンへのアクセス路線として機能しているが、野町が始発駅で金沢の中心地へは乗り換えが必要なことやご多分に漏れずクルマ社会であることなどから、鉄道の収支は厳しく北陸鉄道はこれまで、沿線自治体に廃止の意向を示してきた。
額住宅前を出ると沿線の景色はのびのびとしてきて、線路も7駅先の小柳(おやなぎ)まで一直線。途中、陽羽里(ひばり)という新しい駅があり、駅の周辺を造成している。住宅街や事業所ができるのだろうか。調べると駅は開業からひと月経っておらず、路線廃止の可能性が薄まったようで嬉しい。
小柳駅の裏手は水田の奥に小高い山、傍らにこじんまりした桜の木が楚々とした枝振りの先に満開の花を実らせており、日本の原風景。

野町から約30分で終点鶴来到着。今では終点となっているが、かつてはここから先に線路が複数方向に伸びていた。結節点の役割を果たしていた駅にふさわしい風格があり、構内には車両基地もある。Tさんは、入場券を購入するというので便乗すると、嬉しい硬券。

約10分で慌ただしく折り返し、新西金沢からJR北陸本線に乗り換えて金沢到着。次なるターゲットである浅野川線の完乗を果たすべく、北鉄金沢駅へと急いだ。
(つづく)